猫が見せる不思議な表情のひとつに、口を少し開けてぼんやりとする仕草があります。これは「フレーメン反応」と呼ばれるもので、猫がニオイからさまざまな情報を読み取っているときに見られる生理現象です。フェロモンや普段嗅がないニオイを感じ取ることで、相手の状態や縄張り、周囲の安全などを確認していると考えられています。

本記事では、猫がフレーメン反応を示す理由や反応しやすいニオイについてわかりやすく解説します。

猫のフレーメン反応とは?

猫のフレーメン反応とは、特定のニオイを嗅いだときに、口を半開きにしてぼんやりとした表情を浮かべる仕草のことです。

猫の上あごには「ヤコブソン器官(鋤鼻器)」と呼ばれる特別な嗅覚器官があり、通常の鼻では感じ取れないフェロモンや化学物質をキャッチできます。猫は気になるニオイを確かめるために口を開き、空気をこの器官に送り込んでニオイの成分を詳しく分析しているのです。

つまり、フレーメン反応とは、猫がニオイから情報を読み取るための自然な生理反応なのです。

猫がフレーメン反応をする理由とは?

猫のフレーメン反応には、フェロモンなどの化学的な刺激を感じ取ったり、未知のニオイを慎重に分析したりと、さまざまな理由があります。

ここでは、猫がフレーメン反応をする主な理由をご紹介します。

  • フェロモンのニオイを嗅ぎ分けている
  • 周囲の安全を確かめている

フェロモンのニオイを嗅ぎ分けている

猫がフレーメン反応を起こす理由のひとつは、フェロモンのニオイを嗅ぎ分けるためです。フェロモンとは、猫同士のあいだで情報を伝えるために分泌される特別な化学物質で、異性を引き寄せたり、縄張りを主張したりする役割を果たします。

フェロモンの分子はとても小さいため、猫は口を少し開けて空気を吸い込み、上あごにある「ヤコブソン器官」で成分を細かく分析します。こうして猫は、相手の状態や縄張りの位置を把握し、敵を避けたり、異性を見つけたりといった判断をしているのです。

周囲の安全を確かめている

猫は未知のニオイに出会ったときにもフレーメン反応を起こすことがあります。初めて嗅ぐニオイに対して、猫は本能的に「安全かどうか」を確かめようとし、鼻とヤコブソン器官の両方を使って慎重に分析します。

危険だと判断すれば、その場を離れたり警戒したりして、身を守る行動に出ることも珍しくありません。こうした反応は、縄張りや周囲の環境を安全に保つための本能的な行動です。

猫がフレーメン反応を起こしやすいものとは?

猫はフェロモンだけでなく、身のまわりのさまざまなニオイに興味を示し、その成分を分析しようとすることがあります。

ここでは、猫がフレーメン反応を起こしやすい主なニオイや対象を紹介します。

  • 周囲の猫のニオイ
  • 自分自身のニオイ
  • フェロモンのニオイがついていそうな場所やモノ
  • ハッカやマタタビのニオイ
  • 塩素系漂白剤のニオイ

周囲の猫のニオイ

猫は、近くにいる猫のお尻まわりや座っていた場所、排泄物のニオイを嗅いだときにフレーメン反応を示すことがあります。

そこに含まれるフェロモンを分析し、「誰のニオイなのか」や「発情の有無」などを確かめていると考えられているのです。特にオス猫は、発情期のメス猫が発するフェロモンに敏感で、反応を示しやすいとされています。


一方で、発情に関係なく、メス猫を含むすべての猫が互いのフェロモンを確認するためにフレーメン反応を行うこともあります。これは、周囲の猫の状態や感情を知り、群れの中での関係性を保つための情報収集の一環といえるでしょう。

自分自身のニオイ

猫がフレーメン反応を示すのは、他の猫のフェロモンだけではありません。毛づくろいの最中に、自分のお尻まわりのニオイを嗅いでフレーメン反応をすることもあります。自分のフェロモンだとわかっていながらも、本能的にもう一度確認してしまうようです。


現代の飼い猫は、他の猫と接する機会が少ないため、自分のニオイを嗅ぐことが習慣のようになっている場合もあります。また、自分の体に他の動物のニオイがついていないか、縄張りを守るためにチェックしているとも考えられています。

明確な理由はまだ解明されていませんが、猫にとってはごく自然な行動といえるでしょう。

フェロモンのニオイがついていそうな場所やモノ

猫は「フェロモンがついていそう」と感じた場所やモノに強く興味を示し、フレーメン反応を見せることもあります。人間の汗や皮脂には、猫のフェロモンに似た成分が含まれているため、衣類や靴下、床などに残ったニオイに反応することも珍しくありません。

特に、飼い主が脱いだあとの靴や靴下、使い終えた寝具などは猫にとって魅力的なチェック対象。猫がそれらを嗅ぎながら口を少し開けているときは、飼い主の汗の成分を分析している可能性があります。

人間には他愛のないニオイでも、猫にとっては大切な情報を得る手がかりになっているのです。

ハッカやマタタビのニオイ

ハッカやマタタビも、猫のフレーメン反応を引き起こすニオイのひとつです。これらの植物に含まれる成分が、猫のフェロモンと似た化学構造を持っているためと考えられています。

ハッカの香りや、ハッカの一種であるキャットニップ(イヌハッカ)は、多くの猫が強い関心を示すニオイです。また、マタタビに含まれる成分にもフェロモンに近いものがあり、猫が陶酔したり、うっとりとした表情を見せたりするのもその影響によるものとされています。

塩素系漂白剤のニオイ

塩素系漂白剤のニオイに反応して、フレーメン反応を示す猫もいます。これは、塩素系漂白剤に含まれる成分の一部が、マタタビに似た化学構造を持つと考えられているためです。そのため、猫によってはマタタビを嗅いだときと同じように興奮したり、うっとりしたような表情を見せたりすることがあります。


ただし、塩素系漂白剤は猫にとって有害で、誤って舐めたり吸い込んだりすると、呼吸器や消化器に深刻な影響を与えるおそれがあります。使用する際は必ず換気を行い、猫が近づかないように注意しましょう。

フレーメン反応している猫との接し方

フレーメン反応は、通常、数秒程度です。フレーメン反応中の猫はニオイの分析にとても集中しているため、邪魔をしたり無理にニオイを近づけたりせず、そっと見守ってあげましょう。

フレーメン反応中に面白がって邪魔をすると、その場から離れてしまったり、驚いてストレスを感じてしまったりします。病気や苦しんでいるわけではないので、猫が満足するまで静かに見守ってあげるのが一番です。

フレーメン反応をしない猫もいる

猫の中には、フレーメン反応をしない個体も存在します。フェロモンはもともと、野生の猫が繁殖期に相手を見つけるための情報源として使われてきたものです。そのため、繁殖の必要がない室内飼いの猫や、ほかの猫と接する機会が少ない猫は、フェロモンを確認する必要があまりなく、反応を示さないことがあります。

また、個体差によって反応が穏やかで、口を開けるなどの特徴的な動作が目立たない場合もあります。フレーメン反応が起きるかどうか、どんなニオイに反応するかは猫によって異なるため、無理に嗅がせようとするのはやめましょう。猫が自分から興味を示すときにそっと見守ることが大切です。

猫のフレーメン反応はニオイで情報を読み取る大切な行動

猫のフレーメン反応は、単なる「変な顔」ではなく、ニオイからさまざまな情報を読み取るための大切な行動です。フェロモンや未知のニオイを分析することで、猫は相手の状態や縄張りの有無、周囲の環境が安全かどうかなどを判断しています。

反応の強さや頻度には個体差がありますが、フレーメン反応は猫にとってごく自然な生理現象のひとつです。フレーメン反応をしているときの猫はニオイに集中しているため、無理に構わず、静かに見守ってあげることが大切です。