猫の腎臓病は、特に高齢の猫で多く見られる病気です。初期には目立った症状が現れないこともあり、健康診断の血液検査や尿検査で初めて腎機能の低下が見つかるケースもあります。
腎臓の機能は一度大きく失われると元の状態に戻すことが難しいため、できるだけ早く変化を発見し、正しい対応をしていくことが重要です。本記事では、猫の腎臓病のなかでも代表的な「慢性腎臓病」を中心に、初期症状や原因、検査方法などを詳しく解説します。
猫の腎臓病とは?
腎臓は、血液中の老廃物をろ過して尿として排出するほか、体内の水分や電解質、血圧などを調整する役割を持つ臓器です。また、赤血球を作るために必要なホルモンの産生にも関わっています。
猫でよく見られるのが、腎臓の機能が長期間にわたって低下していく「慢性腎臓病(CKD)」です。高齢になるほど発症する猫が増え、とくにシニア期以降では注意が必要になります。
慢性腎臓病によって失われた腎機能を完全に元へ戻すことは困難です。そのため治療では、残っている腎機能をできるだけ維持しながら、脱水や高血圧、貧血などの問題に対処し、生活の質を保つことが中心となります。
猫が腎臓病になる原因

猫の慢性腎臓病は、検査をしても原因を1つに特定できないことが少なくありません。以下のようなさまざまな要因が重なって発症すると考えられています。
加齢に伴って発症しやすくなる
慢性腎臓病はどの年齢の猫にも起こる可能性がありますが、高齢になるほど発症率が高くなります。
腎臓には「ネフロン」と呼ばれる、血液をろ過するための構造が多数あります。腎臓へのダメージによって機能するネフロンが減少しても、残ったネフロンが補うため、初期には症状がほとんど現れないことがあります。
そのため、高齢猫では見た目が元気でも定期的に腎機能を確認することが重要です。
遺伝性の腎疾患が関係することがある
猫種によっては、遺伝的な腎疾患に注意が必要です。代表的なのが多発性嚢胞腎(PKD)で、腎臓の中に液体が入った嚢胞が多数形成され、徐々に正常な腎組織が圧迫されていきます。ペルシャやその血統と関連する猫種で知られている病気です。
若い猫で腎臓病が疑われる場合には、こうした先天性・遺伝性疾患も含めて原因を調べることもあります。
急性腎障害から慢性腎臓病へ移行することがある
短期間で腎臓の機能が急激に低下する状態を「急性腎障害」といいます。重度の脱水や尿路の閉塞、腎臓に有害な物質の摂取など、さまざまな原因で起こります。
猫ではとくにユリ属やワスレグサ属の植物による中毒が知られており、花びらや葉だけでなく、花粉や花瓶の水を口にした場合でも重篤な急性腎障害につながることがあります。
急性腎障害から回復しても腎臓にダメージが残り、その後慢性腎臓病として管理が必要になるケースも考えられます。
猫の腎臓病の初期症状
慢性腎臓病の初期には、はっきりした症状がないことも珍しくありません。ここでは、猫の腎臓病を早期発見するために気づいておきたい初期症状を解説します。
水を飲む量と尿量が増える
腎機能が低下すると、尿を濃縮する力が弱くなり、薄い尿を多く出すようになります。その分失われる水分を補おうとして、水を飲む量も増えていきます。
以前より給水器の水が早く減る、トイレの砂の塊が大きくなった、トイレへ行く回数が増えたといった変化があれば、多飲多尿が起きているかもしれません。多頭飼いでは飲水量や尿量の変化を把握しにくいため、トイレの状態や体重などもあわせて観察すると変化に気づきやすいでしょう。
体重が少しずつ減る
慢性腎臓病では、目立った食欲不振がない段階から少しずつ体重が減っていくことがあります。
長毛の猫の場合、見た目だけでは痩せたことに気づきにくいため、定期的に体重を測っておくと変化を捉えやすくなります。以前より背骨や腰骨が触れやすくなった、というのも注意したいサインです。
腎臓病が進行したときに見られる症状

腎機能がさらに低下すると、本来尿として排出されるはずの老廃物が体内に蓄積し、さまざまな症状が現れるようになります。主な症状としては、以下が挙げられます。
- 食欲が低下する
- 嘔吐する
- 元気がなくなる
- 体重が減る
- 毛づやが悪くなる
- 脱水する
- 口臭が強くなる
- 便秘になる
さらに進行すると、貧血によって疲れやすくなったり、歯茎が白っぽく見えたりすることもあります。高血圧を合併した場合には、目や脳などに影響が及び、突然見えにくくなる、ふらつく、けいれんするといった症状が現れるケースも少なくありません。
猫の腎臓病を調べる検査
慢性腎臓病の診断では、1つの検査値だけで判断するのではなく、血液検査と尿検査を中心に、必要に応じて血圧測定や画像検査などを組み合わせます。
血液検査
血液検査では、腎機能を評価する指標として主に「クレアチニン」「BUN(尿素窒素)」「SDMA」などを確認します。
クレアチニンは腎機能の評価に広く使われていますが、筋肉量などによる影響も受けます。SDMAも腎機能低下を捉えるための指標として利用されており、複数の検査値を合わせて評価することが重要です。
また、リンやカリウムなどの電解質、貧血の有無なども確認し、その後の治療方針を決める材料にします。
尿検査
尿検査では「尿比重」を測定し、腎臓が尿をどの程度濃縮できているかを調べます。また、尿中にたんぱく質が過剰に出ていないかを調べる「UPC(尿たんぱく/クレアチニン比)」も、慢性腎臓病の状態を評価する重要な項目です。必要に応じて尿培養を行い、尿路感染症がないか確認する場合もあります。
血圧測定や画像検査
慢性腎臓病の猫では高血圧を合併することがあるため、血圧測定も重要です。高血圧は腎臓への負担をさらに大きくするだけでなく、目や脳、心臓などにも影響を与える可能性があります。
超音波検査では、腎臓の大きさや形、内部構造などを確認します。腎結石や嚢胞など、慢性腎臓病の背景にある異常を調べる際にも役立ちます。
猫の腎臓病の治療法
慢性腎臓病では、失われた腎機能を回復させるのではなく、残っている機能をできるだけ維持しながら、病気に伴って起こる問題に1つずつ対応していきます。
茶屋ヶ坂動物病院|泌尿器科のご案内脱水を改善する
腎臓病が進むと尿から失われる水分が増え、脱水しやすくなります。軽度であれば飲水量やウェットフードなどで水分摂取を補えることもありますが、十分な水分を取れない場合には皮下補液が必要です。
状態によっては、自宅で定期的に皮下補液を行うケースもあります。強い脱水や体調悪化がある際は、動物病院で静脈点滴による管理が必要になることも多いです。
高血圧やたんぱく尿を治療する
検査で高血圧やたんぱく尿が認められた場合には、それぞれに対する薬物治療を行います。
高血圧を放置すると腎臓への負担が増えるだけでなく、目や脳などの臓器にも障害を起こすことがあります。また、尿中へのたんぱく質の過剰な漏出も腎臓病の進行に関係するため、状態に応じて治療しなければいけません。
吐き気や貧血などの症状に対応する
腎臓病が進行すると、吐き気や食欲不振、貧血、電解質の異常など、さまざまな問題が起こります。食欲が落ちている場合は制吐薬や食欲増進薬、血液中のリンが高ければリン吸着剤、カリウムが不足していれば補充など、その猫に生じている問題に合わせて治療します。
腎臓で作られる造血に関わるホルモンが不足して重度の貧血を起こした場合には、造血を促す治療も検討されます。
猫の腎臓病には食事管理も重要

慢性腎臓病では、薬や補液だけでなく食事療法も重要な治療の1つです。腎機能が低下すると、体内のリンを十分に排出できなくなることがあります。
血液中のリン濃度が高い状態は慢性腎臓病の進行にも関係するため、食事によるリンの管理が重要です。腎臓病用の療法食ではリンが制限されているほか、たんぱく質の量や質なども腎臓病の猫に合わせて調整されています。
しかし、腎臓病だからといって自己流で肉や魚を減らすと、必要な栄養まで不足するかもしれません。家庭で単純に「低たんぱく食」を作るのではなく、猫の状態に合った食事を選ぶことが大切です。
猫の腎臓病に関するよくある質問
猫の腎臓病について、飼い主が疑問に感じやすいポイントを紹介します。
Q1:若い猫でも腎臓病になりますか?
慢性腎臓病は高齢猫に多いものの、若い猫でも発症することがあります。先天的・遺伝的な腎疾患のほか、急性腎障害によって腎臓がダメージを受け、その後慢性的な機能低下が残るケースもあります。
年齢だけで判断せず、水を飲む量や尿量などに明らかな変化がある場合は原因を調べることが大切です。
Q2:腎臓病は血液検査だけで分かりますか?
血液検査は重要ですが、それだけで腎臓の状態をすべて判断することはできません。
クレアチニンやSDMAなどの血液検査に加えて、尿比重や尿たんぱくを調べる尿検査、血圧測定などを組み合わせることで、より詳しく状態を把握できます。必要に応じて超音波検査なども行います。
Q3:療法食を食べてくれない場合はどうすればよいですか?
急にすべての食事を療法食へ変更するのではなく、これまでのフードへ少しずつ混ぜながら慣らす方法を試してみるのが良いでしょう。
療法食にもドライ・ウェット、味や食感の異なる製品があります。少し温めて香りを立たせることで食べやすくなる猫もいます。療法食を食べないからと食事そのものを長時間与えないのではなく、食べられる方法を探すことが大切です。
Q4:腎臓病と診断された猫の余命はどれくらいですか?
慢性腎臓病の経過は、診断時のステージや年齢、併発疾患、治療への反応などによって大きく異なります。
早い段階で発見され、その後長期間安定して生活できる猫もいます。一方、腎機能が大きく低下した状態では、より集中的な管理が必要です。
そのため、「ステージ○なら必ずあと○年」と考えるのではなく、定期検査による数値の推移や食欲、体重、生活の様子を見ながら経過を判断しましょう。
Q5:多頭飼いで飲水量や尿量を把握するにはどうすればよいですか?
複数の猫が同じ水やトイレを使用していると、1匹ごとの飲水量や尿量を正確に把握することは難しいです。水飲み場とトイレを複数用意し、どの猫がどこをよく利用するか普段から観察しておくと変化を捉えやすくなります。
飲水量だけにこだわらず、尿の塊の大きさやトイレの回数、体重、食欲など複数の変化を合わせて確認しましょう。
猫の腎臓病は早期発見と継続的な管理が大切
猫の慢性腎臓病は、とくに高齢になるほど増える病気です。初期にはほとんど症状がないこともありますが、進行すると多飲多尿や体重減少、食欲不振、嘔吐、脱水などさまざまな症状が現れます。
一度低下した腎機能を完全に元へ戻すことは難しいものの、早い段階から食事療法や水分管理、必要に応じた薬物治療を行うことで、進行を抑えながら生活の質を維持できる可能性があります。
普段から飲水量や尿量、体重の変化を観察し、特にシニア期に入った猫では、症状がなくても定期的に血液検査や尿検査を受けて早期発見に繋げましょう。
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