インフルエンザが流行する時期になると、「猫もインフルエンザにかかるのか」と不安に思う飼い主は少なくありません。猫が人と同じ季節性インフルエンザに感染することは稀ですが、可能性はゼロではなく、猫特有のウイルスによってインフルエンザに似た症状を示すこともあります。
本記事では、猫のインフルエンザの原因や症状、対処法や予防策まで、飼い主が知っておきたい基本的な情報をわかりやすく解説します。
人のインフルエンザは猫に感染する?

猫を飼っている人がインフルエンザにかかると「愛猫にうつるのでは」と不安に思うかもしれません。まずは、人と猫のインフルエンザの違いや、感染リスクについて詳しく見ていきましょう。
- 基本的には感染しない
- 感染するケースもゼロではない
- 鳥インフルエンザに感染した事例もある
基本的には感染しない
人の季節性インフルエンザは「ヒト季節性インフルエンザ」と呼ばれ、基本的に人から人へ感染するものです。つまり、飼い主がインフルエンザにかかっても、猫にうつる心配はほとんどありません。
もし猫に咳や鼻水などの症状が見られた場合は、インフルエンザではなく「猫風邪」など別の病気の可能性が高いため、別の意味で注意が必要です。
感染するケースもゼロではない
通常は、人のインフルエンザが猫にうつる心配はほとんどありませんが、例外的に感染が起きたと報告されたケースも存在します。
代表的なものが、2009年に世界的に流行した「新型インフルエンザ(H1N1型)」です。当時、アメリカの家庭で飼われていた猫が飼い主からウイルスをうつされ、呼吸器症状を発症した事例が複数確認されました。無事に回復したケースもあれば、重症化して命を落としたケースもあったと記録されています。
こうした「逆人獣感染(reverse zoonosis)」は非常に稀ですが、全く起こらないわけでもありません。そのため、飼い主がインフルエンザにかかった場合は、念のため基本的な感染対策を心がけることが望ましいといえます。
鳥インフルエンザに感染した事例もある
過去には、猫が鳥インフルエンザ(H5N1株)に感染した事例も報告されています。主な感染経路は、感染した鳥を捕食したり接触したりすることによるもので、発症すると呼吸器症状や重度の肺炎を引き起こし、命に危険を及ぼす可能性もあるでしょう。
発生頻度は稀ですが、発症すると重症化しやすいため、野鳥や汚染が疑われる場所への接触を避けることが大切です。
猫のインフルエンザに似た病気
猫がかかる病気の中には、人のインフルエンザとよく似た症状を示すものがあります。ここでは、代表的な2つの病気を紹介します。
- 猫カリシウイルス感染症
- 猫ウイルス性鼻気管炎
猫カリシウイルス感染症
猫カリシウイルス感染症は、感染するとくしゃみ・鼻水・目やに・発熱・食欲不振といった症状を引き起こす、いわゆる「猫風邪」の一種です。また、口の中に潰瘍ができたり、よだれや口臭が強まることもあります。
感染力が強いため、多頭飼いや保護施設などでは感染が拡大しやすく、特定の強毒株では致死的になるケースも報告されています。
猫ウイルス性鼻気管炎
猫ウイルス性鼻気管炎は、猫ヘルペスウイルス1型が原因で起こる呼吸器感染症で、こちらも「猫風邪」の一種です。主な症状は、くしゃみ・鼻水・発熱・食欲不振などで、人のインフルエンザによく似ています。
重症化すると結膜炎や角膜炎を併発し、視力に影響を及ぼすことも。感染力が強く、一度かかるとウイルスが体内に潜伏し、再発を繰り返す恐れがあります。
飼い主がインフルエンザになった場合の猫との接し方

飼い主がインフルエンザにかかったときは、自分の体調管理だけでなく猫への配慮も必要です。人の季節性インフルエンザが猫にうつる可能性は低いとされていますが、接し方や猫の体調には十分な注意が求められます。
ここでは、特に気をつけるべきポイントを見ていきましょう。
- 猫との過度なスキンシップは避ける
- 猫の体調に注意を払う
猫との過度なスキンシップは避ける
飼い主がインフルエンザにかかっている間は、猫との過度なスキンシップは控えましょう。人の季節性インフルエンザが猫にうつる可能性は非常に低いとされていますが、稀に感染が報告された例もあります。
お世話をする際にはマスクを着用し、手洗いを徹底するなど、感染対策に気を配りながら必要最低限の接触にとどめることが大切です。
猫の体調に注意を払う
猫の体調に普段と変わったところはないか注意を払うことも、飼い主がインフルエンザになった場合の大切なポイントです。食欲が落ちていないか、咳や鼻水が出ていないかなどをよく確認し、少しでも異変があれば早めに動物病院を受診しましょう。
なお、受診の際は、自分の体調とも相談しながら無理のない対応を心がけることが重要です。
猫のインフルエンザの症状とは?

猫のインフルエンザの症状はさまざまで、咳やくしゃみといった呼吸器の不調に加え、鼻水や発熱、食欲不振や倦怠感など全身に影響が出ることもあります。こうした症状を正しく理解しておくことが、早期発見と適切な対処につながります。
ここでは、猫がインフルエンザにかかった場合の主な症状を紹介します。
- 咳
- くしゃみ
- 鼻水
- 発熱
- 食欲不振
- 倦怠感
咳
猫がインフルエンザにかかると、咳の症状が見られることがあります。軽い咳でも呼吸器の異常を示すサインと考えられるため、注意して観察することが大切です。
くしゃみ
くしゃみも、猫がインフルエンザにかかった場合の症状のひとつです。ほこりや花粉による一時的な反応の場合もありますが、長く続く場合はウイルス性の呼吸器疾患が関係している可能性が考えられます。
鼻水
猫が鼻水を出している場合、透明なものであれば軽度の炎症が考えられますが、粘り気が強くなったり色が濁ったりしているときは、ウイルス感染が原因のケースもあります。鼻づまりが続くと呼吸がしづらくなることもあるため、早めに対策しましょう。
発熱
平常時の猫の体温は38~39度ですが、これを超えて高熱になると食欲が落ちたり、ぐったりとした様子が見られることがあります。人のように体温計で簡単に測れないため、正確な体温を知るのは難しいですが、元気がなく熱っぽさを感じたら早めに動物病院を受診しましょう。
食欲不振
インフルエンザに感染して体調が悪くなると、フードを残したり、口をつけなくなったりすることもあります。その状態が長く続くと脱水や栄養不足を招く恐れもあり、気をつけるべき症状のひとつといえます。
倦怠感
インフルエンザにかかった猫は、普段より動きが鈍くなり、長時間寝て過ごすなど全体的に元気を失うことがあります。これは体がウイルスと戦っているサインのひとつで、発熱や食欲低下と同時に現れるケースも少なくありません。特に、同様の症状が数日間続く場合は体調を崩している可能性が考えられます。
猫がインフルエンザに感染した場合の対処法とは?

猫がインフルエンザが疑われるような症状を示した場合、軽い症状なら自宅で安静にさせながら様子を見ることも可能です。しかし、食欲の低下やぐったりした様子が見られるときは、早めに受診しましょう。
ここでは、猫がインフルエンザに感染した場合の対処法を紹介します。
- 様子を見る
- 動物病院を受診する
様子を見る
猫が咳やくしゃみなどの症状を示しても、必ずしもインフルエンザとは限りません。症状が軽ければ、自宅で安静にさせながら様子を見るのも選択肢のひとつです。
ただし、水分をしっかり取れているか、食欲が落ちていないかなど、猫の様子を注意して観察するようにしましょう。
動物病院を受診する
症状が強く出ている場合や、元気がなく食欲も落ちているような場合は、できるだけ早く動物病院を受診することをおすすめします。猫のインフルエンザに特効薬はありませんが、点滴や投薬などで症状を和らげ、体力の消耗を防ぐことは可能です。
特に子猫や高齢猫、持病のある猫は重症化しやすいため、早期に適切なケアを受けることが回復への近道となります。
茶屋ヶ坂動物病院|総合診療科のご案内猫のインフルエンザについて正しい知識を身につけよう
猫が人の季節性インフルエンザに感染することは、基本的にありません。ただし、例外的にうつるケースや、野鳥を介した鳥インフルエンザの感染事例が報告されているのも事実です。
また、猫特有の「猫カリシウイルス感染症」や「猫ウイルス性鼻気管炎」は、人のインフルエンザとよく似た症状を示すため注意が必要です。
飼い主がインフルエンザになった場合は過度な接触を控えつつ、猫の体調をよく観察しましょう。もし、食欲不振や呼吸器の異常など異変が見られた場合は、早めに動物病院を受診し、獣医師の診察を受けることが大切です。