愛猫の健康を願う飼い主にとって、癌(がん)は最も心配な病気の一つです。

近年、猫の平均寿命が延びる一方で、高齢猫の癌発症率も増加傾向にあります。本記事では、猫の癌について症状の見分け方から最新の治療法、そして日常でできる予防策まで、獣医師監修のもと詳しく解説いたします。

猫の癌(がん)の基本知識

猫の死因として上位を占める癌について、基本的な知識から理解していきましょう。

良性と悪性の違い

腫瘍には良性と悪性があり、悪性腫瘍のことを一般的に「癌」と呼びます。良性腫瘍は成長が緩やかで転移しませんが、悪性腫瘍(癌)は以下の特徴を持ちます。

  • 急速に成長し、周囲の組織に浸潤する
  • 血管やリンパ管を通じて他の臓器に転移する
  • 手術で除去しても再発する可能性が高い
  • 全身の栄養状態に悪影響を与える

良性腫瘍の場合、多くは経過観察で問題ありませんが、悪性腫瘍は早期の診断と治療が生存率を大きく左右します。外見だけでは判断できないため、しこりを発見したら必ず獣医師による詳しい検査を受けることが重要です。

猫の癌発症率

癌は、猫の死因の約30〜40%と言われており、人間と同様に死因の上位となっています。癌発生率は年齢とともに増加し、9歳以降に急激に上昇します。

20年前と比較して、猫の平均寿命は約2〜3年延び、現在では15歳以上の猫も珍しくありません。しかし、長寿になるほど癌の発症リスクも高くなるため、高齢猫の癌対策は現代の猫医療における重要な課題となっています

猫種別癌発症リスク

猫の品種によって特定の癌に対する感受性が異なることが、近年の研究で明らかになっています。下記では、主な品種別のリスクをご紹介します。

シャム系猫

シャム系の品種は、乳腺腫瘍になりやすい傾向があります。

特にシャム系猫の特徴として、下記が挙げられます。

  • 他の品種と比較して乳腺腫瘍の発症率が高い
  • 若齢での発症が多く、9歳で発症のピークを迎えることが知られている
  • 一般的な猫の乳腺腫瘍発症年齢(10〜12歳)より早期に発症する傾向がある

シャム系猫を飼っている飼い主は、8歳頃から特に注意深く乳腺部のしこりチェックを行うことが重要です。日常のスキンシップの際に、胸部から腹部にかけて優しく触って、小さな硬いしこりがないか定期的に確認しましょう

白猫・白色部分の多い猫

白い猫、あるいは白を含む毛色の猫は、紫外線曝露と強く関係した扁平上皮癌の発症リスクが高いことが分かっています。

  • 鼻鏡(鼻の頭の黒い部分)
  • 耳先
  • 眼瞼(まぶた)
  • その他の色素のない、または色素が薄い皮膚部分

これらの部位は、メラニン色素が少ないため紫外線による遺伝子損傷を受けやすく、扁平上皮癌が発生しやすくなります。予防として、下記を心掛けましょう。

  • 直射日光が当たる窓際での長時間の日光浴を避ける
  • UVカットフィルムを窓に貼る
  • 特に夏場の強い紫外線に注意する
  • 外出時(通院など)は直射日光を避ける

猫に多い癌の種類と症状

愛猫の異変を見逃さないために、猫に多い癌の種類とその症状を詳しく見ていきましょう。

リンパ腫

リンパ腫は猫の癌の中でも最も発生頻度が高く、発生部位によって以下に分類されます。

消化管型リンパ腫(最多)

消化管型リンパ腫は猫のリンパ腫の中で最も多く見られる型で、主に小腸に発生します。好発年齢は8~12歳です。

主な症状は下記の通り。

  • 慢性的な嘔吐・下痢が続く
  • 食欲不振が徐々に進行
  • 体重減少(食べているのに痩せる場合も)
  • 元気消失、活動量の低下

この型の厄介な点は、炎症性腸疾患(IBD)との鑑別が困難な点です。IBDの治療を行っても改善しない場合や、症状が徐々に悪化する場合は、リンパ腫の可能性を考慮する必要があります。

確定診断には、内視鏡を使用して腸の組織を採取し、病理検査を行います。

多中心型リンパ腫

多中心型リンパ腫は、若齢猫(1歳以下)に多いリンパ腫で、体表リンパ節の腫脹、食欲不振などの症状が現れます。

主な症状は下記の通り。

  • 体表リンパ節(首、脇の下、足の付け根など)の腫れ
  • 元気がなくなる
  • 食欲不振
  • 発熱することもある

飼い主は、定期的に以下の部位を優しく触って、腫れがないか確認しましょう。

  • 顎の下(下顎リンパ節)
  • 首の両側(頸部リンパ節)
  • 前脚の付け根(腋窩リンパ節)
  • 後脚の付け根(鼠径リンパ節)

正常なリンパ節は小さく、柔らかく動きます。硬く大きくなったり、複数箇所で腫れが見られる場合は要注意です。

診断方法は、リンパ節の細胞診です。腫れたリンパ節に細い針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で観察します。

縦隔型リンパ腫

胸腔内の縦隔(左右の肺の間の部分)や胸腺に発生するリンパ腫です。

主な症状は下記の通り。

  • 呼吸困難(口を開けて呼吸する)
  • 咳が続く
  • 運動を嫌がる
  • 胸水が溜まることによる腹部膨満

特徴としては、猫白血病ウイルス(FeLV)に感染している猫では、縦隔型リンパ腫の発症リスクが非常に高くなるということが挙げられます。そのため、FeLV陽性の猫では定期的な胸部レントゲン検査が推奨されます。

呼吸困難は生命に関わる症状のため、以下の症状が見られたら緊急受診が必要です。

  • 口を開けて呼吸している
  • 呼吸数が1分間に40回以上
  • 舌や歯茎の色が青っぽい(チアノーゼ)
  • じっとしていても呼吸が苦しそう

扁平上皮癌

扁平上皮癌は局所的な浸潤性が強く、以下の部位に多発します。

口腔内扁平上皮癌

口腔内扁平上皮癌は、猫の口腔内腫瘍の60%以上を占める、最も多い口の中の癌です。

口腔内扁平上皮癌の大きな特徴は、激しい痛みを伴うことです。腫瘍が顎の骨まで浸潤する(染み込むように広がる)ことが多く、骨を溶かしながら進行します。そのため、食事時の痛みが非常に強く、猫の生活の質を著しく低下させます。

主な症状は下記の通り。

  • 口臭の悪化
  • よだれの増加
  • 食事困難
  • 口からの出血

早期発見のためには、定期的な口腔内チェックが重要です。下記のポイントを押さえておきましょう。

  • 歯磨きやお口のケア時に異常がないか確認
  • 口臭の急激な悪化に注意
  • 食べ方の変化を見逃さない
  • 高齢猫では特に注意深く観察

皮膚扁平上皮癌

皮膚の扁平上皮癌は、紫外線の影響を受けやすい部位に発生します。好発部位は、耳介、鼻鏡、眼瞼です。白猫や白色部分の多い猫では、メラニン色素が少ないため紫外線による遺伝子損傷を受けやすく、扁平上皮癌のリスクが高くなります

症状の進行パターンとしては下記の通りです。

初期

  • 小さな傷や皮膚炎のような病変

進行期

  • 治らない潰瘍ができる
  • カリフラワー状に盛り上がる
  • 出血しやすくなる
  • 悪臭を伴うことがある

末期

  • 広範囲に潰瘍が拡大
  • 深部組織への浸潤
  • 所属リンパ節への転移

乳腺腫瘍

猫の乳腺腫瘍は約90%が悪性で、愛猫の予後に大きな影響を与える重要な癌の一つです。この癌の最も特徴的な症状は、胸部や腹部の皮膚表面にできる乳腺部のしこりですが、多くの場合、複数箇所に同時に発生することが知られています。

初期の乳腺腫瘍は小さなしこりとして現れますが、痛みを伴わないため猫は無症状のことがほとんどです。そのため飼い主が気づかないうちに進行してしまうケースが多く、日常的なスキンシップでの乳腺チェックが重要になります。

症状の進行パターンとしては、下記の通りです。

初期:

  • 胸部や腹部の皮膚表面に小さなしこりが出現
  • 複数箇所に同時発生することが多い
  • 痛みを伴わないため猫は無症状
  • 飼い主が気づきにくい段階

進行期:

  • しこりが急激に大きくなる
  • 皮膚が自壊して潰瘍を形成
  • 患部からの出血が頻繁になる
  • 細菌感染により悪臭を伴うことがある
  • 猫が患部を気にして舐める行動が見られる

末期:

  • 肺転移による咳の出現
  • 運動を嫌がるようになる
  • 呼吸が荒くなり、安静時でも呼吸困難
  • 食欲不振、体重減少
  • 生命に関わる重篤な状態

また、乳腺腫瘍は1歳以下での避妊手術により発生率を大幅に減少させられる「予防可能な癌」です。1歳以下での避妊手術により発症リスクを91%、2歳以下でも86%のリスク減少効果があります。これは性ホルモンの曝露期間が乳腺腫瘍の発症に大きく関与するためです。

ただし、2歳を過ぎてからの避妊手術では予防効果は限定的となります。

その他の重要な癌

その他の重要な癌は、以下にまとめます。

肥満細胞腫

肥満細胞腫とは、肥満細胞という免疫細胞が腫瘍化した病気です。

肥満細胞腫は、発生部位により予後が大きく異なる癌です。皮膚型は比較的予後良好で、手術による完全切除が可能であれば治癒が期待できます。一方、内臓型は脾臓や肝臓に発生し、診断時にはすでに転移していることが多く予後不良とされています。

血管肉腫

血管肉腫は血管内皮細胞から発生する悪性度の高い癌で、突然の虚脱や腹部膨満が特徴的な症状です。これは腫瘍の破裂による腹腔内出血が原因で、破裂リスクが高いため緊急手術が必要になる場合が多い危険な癌です。

普段元気だった猫が急に倒れた場合は、血管肉腫の可能性も考慮する必要があります。

悪性黒色腫(メラノーマ)

悪性黒色腫は口腔内、眼球、皮膚に好発する癌です。「黒色腫」という名前ですが、必ずしも黒色とは限らず、茶色、灰色、ピンク色など様々な色調を示すことがあります。既存のほくろや色素沈着の急激な変化、形状や大きさの変化に注意が必要です。

癌の原因と予防法

猫の癌発生には複数の要因が複雑に関与しており、多くの場合これらの要因が組み合わさることで癌が発症します。主要な要因を理解することで、予防策を講じたり、愛猫のリスクを評価したりすることが可能になります

加齢による免疫機能低下

加齢は猫の癌発症における最も一般的な要因の1つです。年齢を重ねることで、体内で異常な細胞を見つけて排除する「免疫監視機構」が徐々に衰えていきます

7歳以降は免疫力が徐々に低下し、癌細胞の発見・攻撃・排除という一連の免疫機能がうまく働かなくなります。また、異常細胞の排除機能が弱くなるため、本来であれば除去されるべき癌化した細胞が生き残り、増殖する可能性が高まります。

この免疫機能の低下は避けることができない自然な老化現象ですが、適切な栄養管理や生活環境の整備により、免疫機能の維持をサポートすることは可能です。予防法については下記の「効果的な予防策」をご確認ください。

ウイルス感染

特定のウイルス感染は、猫の癌発症リスクを大幅に上昇させることが知られています。以下、代表的なウイルスを解説します。

猫白血病ウイルス(FeLV)

リンパ腫の直接的な原因となるウイルスです。FeLVに感染した猫では、リンパ腫の発症リスクが感染していない猫と比較して数十倍高くなります。特に若齢での感染は重篤で、持続感染となった場合の予後は非常に厳しいとされています。

猫免疫不全ウイルス(FIV)

免疫機能低下は、様々な癌のリスクを上昇させます。FIVそのものが直接癌を引き起こすわけではありませんが、免疫力が低下することで他の発癌要因に対する抵抗力が弱くなり、結果として癌の発症リスクが高まります

環境要因

猫を取り巻く環境には、様々な発癌リスクが潜んでいます。主要な環境要因を押さえておきましょう。

紫外線

紫外線は皮膚癌のリスクを高める主要な要因です。特に白猫や白色部分の多い猫では、メラニン色素による保護機能が不十分なため、紫外線による遺伝子損傷を受けやすくなります。室内飼いであっても、窓越しの強い日光には注意が必要です。

受動喫煙

タバコの煙には70種類以上の発癌性物質が含まれており、猫が煙を吸い込むことで口腔癌や肺癌のリスクが上昇します。また、猫は毛づくろいを頻繁に行うため、毛に付着した有害物質を舐めとってしまうリスクもあります。

ホルモン要因

避妊手術未実施の雌猫では、乳腺腫瘍のリスクが大幅に増加します。

発情を繰り返すたびに分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)は、雌猫の生殖機能を調節する重要なホルモンです。

これらのホルモンが乳腺組織に作用すると、将来の授乳に備えて乳腺細胞の分裂・増殖が活発になります。しかし、細胞分裂の回数が増えるほど、DNA複製時のコピーエラーや環境要因による遺伝子損傷が蓄積しやすくなります。

通常であれば細胞の修復機能により異常は修正されますが、ホルモンの長期曝露により修復が追いつかなくなると、遺伝子変異を持った細胞が生き残り、やがて癌化するリスクが高まるのです。

長期間のホルモン変動は、ホルモン依存性の癌発症リスクを高めます。そのため、繁殖を予定していない場合は、若齢時の避妊・去勢手術が強く推奨されます。

遺伝的要因

遺伝的な要素も癌発症に関与しますが、その影響は環境要因や生活習慣要因と比較すると限定的とされています。

品種特異的なリスクは確実に存在し、特定の品種では特定の癌に対する感受性が高いことが知られています。しかし、遺伝的なリスクがあったとしても、適切な生活管理により発症を予防したり、発症時期を遅らせたりすることは可能です。

家族歴がある場合は、より注意深い健康管理と定期的な検診が重要になります。特に親猫や兄弟猫が若齢で癌を発症した場合は、遺伝的な要因を考慮した予防策を講じることが推奨されます。

効果的な予防策

癌を完全に予防することは困難ですが、予防策を講じれば、発症リスクを軽減することが可能です。以下の対策を組み合わせて実践することで、愛猫の癌リスクを効果的に下げることができます。

基本的な予防措置

最も効果的な予防策は、癌の原因となる要因を可能な限り排除することです。

1歳以下での避妊・去勢手術の実施

1歳以下での避妊・去勢手術の実施は、ホルモン関連の癌を劇的に減らします。特に乳腺腫瘍の予防効果は絶大で、1歳以下での避妊手術により発症リスクを91%も減少させることができます。

完全室内飼育

室内での飼育は、複数のリスクを同時に軽減できる重要な対策です。ウイルス感染、交通事故、他の猫との喧嘩によるストレス軽減、そして有害物質への曝露を避けることができます。

受動喫煙の回避と紫外線対策

受動喫煙対策と紫外線対策は、基本的ながら重要な予防策です。家族が喫煙する場合は猫から離れた場所で行い、窓ガラスにUVカットフィルムを貼ることで紫外線による皮膚癌のリスクを軽減できます。

栄養管理による予防

適切な栄養管理は免疫機能の維持に不可欠です。

安価なフードに多い人工添加物や粗悪な原材料は、免疫機能に負担をかける可能性があるため注意が必要です。逆に、高品質なキャットフードは、健康維持に必要な栄養素をバランス良く摂取できる可能性が高いです

適正体重の維持も重要で、肥満は免疫機能を低下させ、慢性炎症を引き起こすため癌のリスクを高めます。また、抗酸化物質を含む食材の適量摂取により、活性酸素による細胞損傷を軽減し、癌の発症リスクを下げることができます。

ストレス管理

慢性的なストレスは免疫機能を低下させ、癌の発症リスクを高めるため、ストレス軽減対策は重要な予防策となります。下記の点に注意しましょう。

  • 安定した生活環境の提供:規則正しい食事時間、清潔で静かな休息場所
  • 適度な運動機会の確保:室内でも十分な運動ができる環境づくり
  • 隠れ場所や高い場所の確保:猫が安心できるプライベート空間の提供

定期健康診断

早期発見は癌治療の成功率を大幅に向上させます。

7歳以降は年2回の健康診断を受けることで、症状が現れる前の早期発見が可能になります。検査項目には血液検査、画像検査による異常の発見が含まれます。

自宅での日常チェックも重要です。日々のスキンシップで体表のしこりや腫れを確認し、食欲、排泄、行動の変化に注意を払いましょう。小さな変化でも記録しておくことで、獣医師の診断に役立ちます。

猫の癌の治療法

癌の診断が確定した場合、適切な治療選択が愛猫の予後を大きく左右します。現在では複数の治療選択肢があり、癌の種類や進行度、猫の全身状態に応じて最適な治療法を選択することが可能です。

外科治療

外科手術は癌治療の基本となる治療法です。癌が発生した最初の場所に留まっており、他の臓器やリンパ節に転移がない場合に最も効果的で、周囲の正常組織を含めて完全に切除できる場合に適用されます。

メリットは、完全切除できれば根治の可能性があることです。癌組織を物理的に除去するため、成功すれば最も確実な治療効果が期待できます。

デメリットは、全身麻酔のリスク、術後合併症があることです。特に高齢猫では麻酔によるリスクが高まり、手術部位によっては機能障害が残る可能性もあります。

根治手術と姑息手術の違い

外科治療には目的に応じて2つのアプローチがあります。これらの違いも理解しておきましょう。

根治手術:癌の完全除去を目的とした手術で、癌組織を取り残すことなく周囲の正常組織も含めて広範囲に切除します。完全治癒を目指すため、手術侵襲は大きくなりますが、成功すれば長期生存が期待できます。

姑息手術:症状緩和、QOL改善を目的とした手術で、癌の完全除去は困難だが症状を軽減するために部分的に腫瘍を切除します。延命効果は限定的ですが、痛みや機能障害を軽減し、生活の質を向上させることができます。

化学療法(抗癌剤治療)

化学療法は抗癌剤を用いて癌細胞を攻撃する全身治療です。主に、血液の癌、転移性腫瘍、術後補助療法として用いられます。特にリンパ腫などの血液の癌や、すでに転移が起こっている場合、手術後の再発予防として使用されます。

メリットは、全身治療が可能なことです。血管を通じて全身に薬剤が行き渡るため、目に見えない微小な癌細胞や転移巣にも効果を発揮できます。

デメリットは、副作用(食欲不振、嘔吐、骨髄抑制)があることです。正常な細胞にも影響を与えるため、消化器症状や免疫機能の低下が起こる可能性があります。

猫の化学療法の特徴

猫の化学療法には人間とは異なる特徴があります。

人間より副作用が軽い傾向があるため、比較的安全に治療を継続できることが多いです。QOL重視の治療プロトコルが採用されており、生活の質を保ちながら治療を行うことを重視します。また、入院の負担が少なく、慣れ親しんだ家庭環境で過ごしながら治療を受けることができます。

放射線治療

放射線治療は高エネルギーの放射線を照射して癌細胞を破壊する治療法です。脳腫瘍や鼻腔内腫瘍など、手術が困難な部位の癌に対して特に有効です。

メリットは、局所的な治療効果が高い点です。正確に癌組織に放射線を照射することで、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えながら治療効果を得ることができます。

デメリットは、特殊設備が必要でかつ、全身麻酔が必要な点です。放射線治療装置を備えた施設は限られており、治療のたびに全身麻酔が必要になります。

緩和ケア

根治的治療が困難な場合や、治療の副作用が強い場合には、症状の緩和と生活の質の維持を目的とした緩和ケアが重要になります。

疼痛管理

鎮痛剤、抗炎症薬により、癌による痛みを効果的にコントロールします。適切な疼痛管理により、愛猫が快適に過ごせる時間を延ばすことができます

栄養管理

強制給餌、点滴療法により、癌による食欲不振や栄養不良を改善します。必要に応じて経鼻チューブや胃瘻による栄養供給も検討されます。

精神的ケア

環境ストレスの軽減により、愛猫が安心して過ごせる環境を整えます。馴染みのある場所での療養、家族との時間の確保などが重要になります。

治療選択の考え方

ここまで外科治療、化学療法、放射線治療、緩和ケアという具体的な治療法について解説してきましたが、ここからは実際に愛猫が癌と診断された場合に、どのように治療方法を選択するべきかについて解説します。治療選択は愛猫の生命に直結する重要な決断であり、様々な要因を慎重に検討する必要があります。

以下で解説する内容を理解したうえで、獣医師と相談して納得のいく選択をしましょう。

茶屋ヶ坂動物病院|腫瘍科のご案内

治療選択に影響する因子

治療方針を決定する際には、医学的な要因だけでなく、猫の生活環境や飼い主の状況も含めて総合的に判断することが重要です。

癌の種類と進行度

癌の種類と進行度は、治療選択の最も基本的な要因です。癌の組織型によって治療に対する反応性が大きく異なります。例えばリンパ腫は化学療法に良く反応しますが、扁平上皮癌は手術による完全切除が最も効果的です。

また、早期癌では根治を目指した積極的治療が選択される一方、進行癌では症状緩和を重視した治療が中心となります。

猫の年齢と全身状態

若く体力のある猫では侵襲的な治療にも耐えられますが、高齢猫や併存疾患のある猫では、治療による負担が利益を上回る可能性があります。麻酔リスクや術後の回復能力、化学療法の副作用に対する耐性なども慎重に評価する必要があります。

飼い主の価値観と経済的事情

しばしば見落とされがちですが、飼い主の価値観と経済的事情も非常に重要な要素です。根治を目指して積極的な治療を望む場合もあれば、苦痛を与えずに自然な経過を見守りたいと考える場合もあります。

また、治療費は高額になることが多く、経済的な負担も現実的に考慮しなければなりません

期待される治療効果と副作用

治療効果と副作用のバランスを十分に検討することも必要です。

治療により生存期間が延長される可能性がある一方で、副作用により生活の質が低下するリスクもあります。延命期間の長さだけでなく、その期間をどの程度快適に過ごせるかという質的な側面も重要な判断基準となります

癌が発覚したあとの愛猫との向き合い方

癌の診断を受けた時、飼い主として何ができるかを考えてみましょう。

診断を受けた時の心構え

癌の診断を受けた際は、まず冷静に情報を整理することが重要です。

癌の種類と進行度の正確な把握から始めましょう。診断名、進行度、転移の有無、今後の見通しについて詳しく説明を受けてください。

治療選択肢とその効果・リスクの理解も欠かせません。提案される治療法のメリット・デメリット、期待される効果、副作用、費用について具体的な説明を求めましょう。予後予測の確認により今後の見通しを把握しますが、これはあくまで統計的データであり、個々の猫で経過は異なることも理解しておきましょう。

癌治療は長期戦になることが多く、家族全員での協力が必要です。治療方針の共有、経済的負担の検討、看護体制の確立について話し合い、役割分担を明確にしましょう。

QOL(生活の質)を重視したケア

癌治療においては、生存期間の延長だけでなく、その期間をいかに快適に過ごすかという質的な側面も同様に重要です。愛猫が安心して過ごせる環境を整えることで、治療効果の向上も期待できます。

快適な環境づくりとして、適温、静寂、清潔な空間を提供しましょう。食事の工夫では、嗜好性の高い食材や食べやすい形状を工夫し、少量を複数回に分けて与えることが効果的です。疼痛管理では、普段と異なる姿勢、触られるのを嫌がる、活動量減少などの痛みのサインを見逃さないよう注意しましょう。

愛猫の健康を守るために

猫の癌は確かに恐ろしい病気ですが、正しい知識と適切な対応により、愛猫との貴重な時間を延ばし、より良い生活を送ることが可能です。

愛猫が癌になったとしても、決して諦める必要はありません。獣医師と連携し、愛猫にとって最良の選択をしていくことで、残された時間を有意義に過ごすことができるでしょう。