秋の味覚として知られるさつまいも。飼い主が食べている際に、その香りに猫が興味を示すこともあるでしょう。栄養価が高いイメージのあるさつまいもですが、猫の食事として与えることに問題はないのでしょうか。
今回は、猫はさつまいもを食べても大丈夫なのか、与える際はどのような点に注意しなければならないのかを、獣医師がわかりやすく解説します。
猫はさつまいもを食べても大丈夫!

結論から申し上げると、猫にさつまいもを与えても基本的には問題ありません。
さつまいもの自然な甘みやホクホクした食感を好む猫もいます。実際に、一部のキャットフードでは食物繊維などを補う目的でさつまいもが使われていることもあり、猫にとって全くのNG食材というわけではありません。
ただし、猫は肉類から栄養を摂取する完全な肉食動物です。さつまいもの主成分である炭水化物は、猫にとっての必須栄養素ではなく、消化も得意ではありません。そのため、栄養補給の目的で積極的に与える必要はないのです。
主食はあくまでキャットフードなので、与える際はトッピングやおやつ程度の感覚で与えましょう。
猫にさつまいもを食べさせるメリットはある?
さつまいもには、食物繊維やビタミン類などの栄養素が豊富に含まれています。そのため、人間にとっては整腸作用や免疫力アップなど、健康にも良い影響を与えてくれます。
このような栄養素は猫にとっても健康上のメリットが期待できますが、効果が表れるほどの量を猫に与えることは現実的ではありません。おやつやトッピング程度の量では健康状態を好転させるとは考えにくく、だからといって効果が出るほどたくさん与えるとカロリーオーバーになってしまいます。
そのため、猫にさつまいもを与えたとしても、健康上のメリットはあまり期待できません。
猫へのさつまいもの正しい与え方

猫にさつまいもを与える際の正しい与え方について、3つの観点で詳しく解説します。
猫に与える際のさつまいもの調理方法
猫にさつまいもを与える際は、調理方法が非常に重要です。生のさつまいもは消化不良を起こしてしまう可能性があるため、加熱してください。
最も推奨される調理法は、栄養素の流出が少ない「蒸す」方法です。「茹でる」でも問題ありません。焼き芋の場合は、皮や焦げた部分を取り除きましょう。
調理後のさつまいもは、消化しにくい皮を必ず取り除き、喉に詰まらせないよう小さく刻むかペースト状にしてください。人間用の調味料は一切加えず、猫がやけどをしないよう人肌程度にしっかりと冷ましてから与えましょう。
猫に与えても良いさつまいもの量
猫にさつまいもを与える際は、ごく少量に留めることが大切です。
目安として、1日に必要なカロリーの5%以下にしましょう。例えば、体重5kgの成猫の場合、1日に必要なカロリーは約220kcal前後なので、与えても良いさつまいものカロリーは11kcal以下ということになります。
調理方法によって異なりますが、蒸したさつまいもは100gあたり約131kcalなので、猫に与えても良いさつまいもの量は約8gです。また、頻度は毎日ではなく、多くても週に1〜2回程度に留めてください。
さつまいもは猫にとって必須の食べ物ではなく、糖質が多いため、与えすぎは肥満や糖尿病のリスクを高めます。さつまいもだけでお腹がいっぱいになり、主食である総合栄養食が食べられなくなると、栄養が偏る原因にもなります。
愛猫の健康を守るためにも、必ず適量を守って与えましょう。
人間用の味付けや加工食品はNG
猫にさつまいもを与えても問題ないからといって、人間用に味付けされたさつまいもや、さつまいもを使った加工食品を猫に与えるのは絶対にやめてください。
人間用の料理には、猫にとって過剰な塩分や糖分が含まれています。塩分は腎臓に大きな負担をかけ、砂糖やバターは肥満や糖尿病の原因になります。
大学芋やスイートポテト、さつまいもチップスといった加工食品は、猫にとっては非常に高カロリーで、健康を害するリスクしかありません。中には、猫に中毒症状を引き起こす危険な食材が使われていることもあります。
愛猫の健康を守るため、与える際は必ず「味付けをせず、加熱しただけのさつまいも」にしましょう。
猫にさつまいもを与える際の注意点
猫にさつまいもを与える際は、以下の点に十分注意してください。
- 持病やアレルギーのある猫には与えない
- 初めて与える際はごく少量から様子を見る
- 喉に詰まらせないような形状にする
持病やアレルギーのある猫には与えない
さつまいもは健康な猫にとっては安全な食材ですが、持病のある猫にはリスクとなる可能性があります。特に注意が必要なのは、糖尿病、腎臓病、食物アレルギーを持つ猫です。
さつまいもは糖質を多く含むため、糖尿病の猫に与えると血糖値の急激な上昇を招く危険があります。また、カリウムが豊富なため、腎機能が低下している猫に与えると高カリウム血症を引き起こし、心臓に負担をかけることもあります。
さらに、特定の食物にアレルギーを持つ猫の場合、さつまいもがアレルゲンとなり、嘔吐や下痢、皮膚のかゆみといった症状を引き起こす可能性もゼロではありません。持病を治療している猫やアレルギーが疑われる猫に与える場合は、必ず事前にかかりつけの獣医師に相談してください。
初めて与える際はごく少量から様子を見る
これまでさつまいもを食べたことがない猫に与える際は、アレルギー反応や消化器系の不調が起きないかを確認するため、必ずごく少量から試すようにしてください。最初は米粒半分〜1粒程度の大きさにし、食べた後は猫の様子を注意深く観察しましょう。
特に、食後から24時間以内に、嘔吐や下痢、体をかゆがる、元気がなくなるといった異変が見られないかを確認することが重要です。もし何らかの異常が見られた場合は、すぐに与えるのを中止し、症状が続くようであれば動物病院を受診してください。
初めて与えて問題がなかった場合でも、いきなり量を増やすのではなく、少しずつ慣らしていくことが大切です。新しい食べ物を与える際は、常に慎重な姿勢を忘れないようにしましょう。
喉に詰まらせないような形状にする
猫は食べ物をあまり噛まずに飲み込む習性があるため、さつまいもの与え方によっては喉や食道に詰まらせてしまう窒息のリスクがあります。特に、加熱したさつまいもは粘り気が出やすく、ある程度の大きさの塊で与えてしまうと、喉に貼り付いてしまう可能性があるため、注意が必要です。
このリスクを避けるため、与える際は必ずフォークの背などで完全に潰してペースト状にするか、飲み込んでも問題ないくらい細かくみじん切りにしてください。特に、丸飲みしがちな早食いの猫や、嚥下(えんげ)機能が衰えている高齢の猫、まだ上手に食べられない子猫に与える際は、最大限の注意が必要です。
与えている最中は目を離さず、万が一の事故が起きないよう必ず見守るようにしましょう。
猫がさつまいもを食べて体調不良になったら

猫がさつまいもを食べた後に嘔吐や下痢、かゆみなどの体調不良を起こした場合は、まず落ち着いて猫の様子を観察してください。
症状が軽度で一時的なものであれば、しばらく安静にさせて様子を見ます。しかし、嘔吐や下痢が複数回続く、ぐったりして元気がない、食欲がないといった場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。
受診の際は、「いつ、どのくらいのさつまいもを食べたか」「どんな症状がいつから出ているか」を獣医師に正確に伝えることが重要です。自己判断で吐かせようとしたり薬を与えたりするのは非常に危険なので、絶対にやめてください。
茶屋ヶ坂動物病院|総合診療科のご案内猫にさつまいもを与える際のよくある質問
猫にさつまいもを与えることに関して、よくある質問とその回答を以下にまとめます。
Q.子猫や老猫(シニア猫)にさつまいもを与えても大丈夫ですか?
基本的には与えても問題ありませんが、成猫以上に注意が必要です。
子猫は消化器官がまだ未熟なため、少量でも下痢をしてしまう可能性があります。また、老猫は消化機能が衰えていたり、気付かぬうちに腎臓などの機能が低下していたりすることがあります。
どちらの場合も、与える際は健康な成猫よりもさらに少量にし、喉に詰まらせないようペースト状にして与えましょう。心配な場合は、かかりつけの獣医師に相談してから与えるのが最も安全です。
Q.さつまいもの皮やツルは食べても大丈夫ですか?
さつまいもの皮は食物繊維が豊富ですが、猫にとっては消化が悪く、胃腸に負担をかける原因になります。ツルも同様に消化しにくいため、与えるのは避けましょう。
Q.便秘気味なので毎日少しずつ与えても大丈夫ですか?
毎日は与えないようにしてください。
さつまいもに含まれる食物繊維には便通を助ける効果が期待できますが、毎日与えるのはおすすめできません。糖質が高いため、習慣的に与えると肥満や糖尿病のリスクを高める可能性があります。
便秘解消が目的でさつまいもを与えるのは、人間にとっては効果的かもしれませんが、猫にとっては健康状態に影響するほどの量を与えることは現実的ではありません。猫の便秘が続く場合は、さつまいもに頼るのではなく、まずは動物病院で原因を調べてもらいましょう。
Q.冷凍したさつまいもを解凍して与えても良いですか?
加熱調理したさつまいもを冷凍保存し、それを解凍して与えることは可能です。ただし、与える際は必ず電子レンジなどで再加熱し、猫がやけどをしないように人肌程度の温度までしっかりと冷ましてください。
冷凍によって品質が劣化することもあるため、長期保存したものは避け、新鮮なうちに使い切るのが理想です。
猫にさつまいもを与える際はルールを守ろう
さつまいもは猫にとって必須の食べ物ではありませんが、正しい知識を持てば、愛猫と楽しめる特別なおやつになります。与える際は、今回紹介した正しい与え方を必ず守り、食べた後は体調不良を起こさないように様子を見守りましょう。
万が一、さつまいもを食べた後に体調不良を起こしてしまった場合は、一旦様子を見て、症状が続くようなら早めに動物病院を受診してください。













