愛猫を感染症から守るために欠かせないのがワクチン接種です。「うちの猫は室内飼いだから大丈夫」と思っている方もいるかもしれませんが、実は完全室内飼いの猫でも感染症にかかるリスクがあります。猫の命を脅かす重大な病気もあるため、適切なワクチン接種で予防することが大切です。
今回は、猫に接種させる必要があるワクチンについて詳しく解説します。正しい知識を身につけて、大切な愛猫の健康を守りましょう。
猫のワクチン接種が必要な理由とは?

完全室内飼いの猫であっても、ワクチン接種は必要です。その理由として、以下のようなケースが考えられます。
- 飼い主の靴や衣服に付着したウイルスの持ち込み
- 来客によるウイルスの持ち込み
- 万が一の脱走時のリスク
- 動物病院やペットホテル利用時の感染リスク
特に猫の感染症の中には、非常に感染力が強く、わずかなウイルス量でも発症してしまうものがあります。猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)の場合、ワクチン未接種の猫への感染率は極めて高く、子猫では死亡率も高いため、予防が何より重要です。
ワクチンの免疫効果
ワクチンは、病原体を無毒化または弱毒化したものを体内に投与することで、人工的に免疫を作り出す予防医療です。これにより、実際にウイルスに感染した際に、発症を防いだり重症化を抑制したりする効果が期待できます。
また、多くの猫がワクチン接種を受けることで「集団免疫」の効果も生まれ、地域全体での感染症の蔓延を防ぐ役割も果たしています。
猫のワクチンの種類と特徴

猫のワクチンは、主に混合ワクチンと呼ばれるものが接種されます。混合ワクチンは、複数の感染症に対して効果があるワクチンを組み合わせたもので、一般的に3種混合ワクチンから5種混合ワクチンまで種類があります。
コアワクチンとノンコアワクチン
まず、猫のワクチンは、「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」の2つに分類されます。
コアワクチンは、生活環境に関わらずすべての猫に接種すべきワクチンとされており、以下の3つの感染症を予防します。
- 猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス感染症)
- 猫カリシウイルス感染症
- 猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)
ノンコアワクチンは、猫の生活環境や感染リスクに応じて接種を検討するワクチンで、主に以下のものがあります。
- 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)
- 猫クラミジア感染症
- 猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ・FIV)
各混合ワクチンの内容
前述したコアワクチンやノンコアワクチンを組み合わせたものが、混合ワクチンと呼ばれています。混合ワクチンは一般的に室内飼いの猫と外出する猫とで使い分けられます。
3種混合ワクチン(コアワクチン)
室内飼いの猫に最も推奨されるワクチンです。感染力が極めて強い急性感染症を予防し、すでに症状が出ている猫の重症化抑制効果も期待できます。
4種・5種混合ワクチン
3種にノンコアワクチンを加えたもので、外出の機会がある猫や多頭飼育環境の猫に推奨されます。
各感染症の詳細
ワクチンで予防できる感染症がどのような病気なのかを理解することは、ワクチン接種の必要性を判断するうえで非常に重要です。これらの感染症は、いずれも猫の健康と生命を脅かす深刻な病気であり、一度発症すると完治が困難だったり、生涯にわたって症状が続いたりするものも少なくありません。
以下では、各感染症の症状や感染経路、重篤度について詳しく解説します。これらの情報を通じて、なぜワクチン接種が推奨されているのか、その理由を理解していただけるでしょう。
猫ウイルス性鼻気管炎
いわゆる「猫風邪」の原因の一つで、猫ヘルペスウイルスが原因です。発熱、元気消失、食欲不振、目やに、結膜炎、くしゃみや咳などの症状が現れます。一度感染すると体内に潜伏し、ストレスや体調不良時に再発する可能性があります。
猫カリシウイルス感染症
猫風邪のもう一つの原因で、鼻水や咳、発熱などの症状に加え、舌や口の中に潰瘍ができるのが特徴です。子猫では肺炎を起こし、命を落とすこともあります。
猫汎白血球減少症
致死率が非常に高い感染症で、白血球の減少、激しい嘔吐・下痢、発熱などの症状が現れます。特に子猫では重篤になりやすく、緊急性の高い病気です。
猫白血病ウイルス感染症
白血病やリンパ腫などの血液系腫瘍を引き起こすほか、免疫力を低下させるため様々な病気を併発しやすくなります。感染した猫との接触により感染するため、外出する猫では接種が推奨されます。
猫クラミジア感染症
主に結膜炎や呼吸器症状を引き起こします。子猫での発症が多く、初期は特に目の症状が目立ちます。濃厚接触でない場合は感染しにくい特徴があります。
猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ・FIV)
猫エイズとも呼ばれる免疫不全を引き起こす感染症です。主に感染した猫との喧嘩による咬傷で感染し、外出する雄猫でのリスクが高くなります。感染初期は無症状のことが多く、数年の潜伏期間を経て免疫力が低下し、様々な二次感染や腫瘍を発症しやすくなります。
※2025年5月現在、猫エイズのワクチンは製造終了しています(接種対象が、外に出歩く猫や猫エイズウイルス陽性の猫と同居している猫など、特定のケースに限定されていたため)
ワクチン接種の時期とスケジュール

ワクチンを接種する際は、ワクチンの種類だけでなくスケジュールも重要になります。子猫と成猫とではワクチン接種のスケジュールが異なるため、それぞれ解説します。
子猫のワクチン接種プログラム
子猫は母猫の初乳から得た「移行抗体」によって最初は感染症から守られていますが、この抗体は数か月で消失するため、適切な時期にワクチン接種を行う必要があります。
基本的なスケジュール
- 1回目接種:生後8週齢(約2か月)
- 2回目接種:1回目から3~4週間後
- 3回目接種:生後16週齢以降(獣医師と相談)
初回接種では十分な抗体が作られない可能性があるため、追加接種で確実に免疫を獲得します。移行抗体の残存状況は個体差があるため、獣医師と相談しながら最適なスケジュールを組むことが大切です。
成猫の追加接種
子猫期にしっかりと免疫を獲得した後は、以下の頻度での接種が推奨されています。
- 完全室内飼い(単頭飼育):3年に1回
- 多頭飼育・外出あり・ペットホテル利用:毎年
世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインでは、コアワクチンは3年以上の間隔、ノンコアワクチンは1年ごとの接種を推奨しています。
茶屋ヶ坂動物病院|ワクチンのご案内ワクチン接種の費用
猫にワクチンを接種させる際にかかるおおよその費用は、以下の表の通りです。動物病院によって料金は異なりますが、一般的な目安として参考にしてください。
なお、猫白血病ワクチンや猫エイズワクチンを初めて接種する場合は、事前にウイルス検査を行い感染の有無を確認する必要があります。すでに感染している猫にはワクチンの効果がないため、検査費用として別途3,000~5,000円程度かかることがあります。
ワクチンの種類 | 費用の目安 |
3種混合ワクチン | 3,000~5,000円 |
5種混合ワクチン | 5,000~7,000円 |
治療費との比較
ワクチンで予防できる感染症にかかった場合の治療費は、ワクチン接種費用を大幅に上回ります。
- 猫風邪の治療:1~2万円
- 合併症がある場合:5万円以上
- 猫白血病ウイルス感染症に伴うリンパ腫治療:数十万円
予防は治療よりもはるかに経済的で、何より愛猫の苦痛を防ぐことができる点を認識しておきましょう。
ワクチンの副作用

ワクチン接種後には、稀に副作用が生じることがあります。副作用への対応を考慮し、午前中の接種がおすすめです。夜間に症状が出た場合、対応が困難になる可能性があります。
接種後30分程度は動物病院内または近くで様子を観察し、帰宅後も24時間は注意深く猫の状態をチェックしてください。
下記に主な副作用の症状を解説します。
軽度の副作用
- 接種部位の痛みや腫れ
- 軽度の発熱
- 一時的な食欲低下
重篤な副作用
- アナフィラキシーショック:接種後30分以内に血圧低下、呼吸困難などが起こる緊急事態
- 顔面の腫脹:月のように丸く腫れる「ムーンフェイス」
- 注射部位肉腫:発症率は約0.01%と低いが、悪性腫瘍のリスク
接種前のチェックポイント
ワクチン接種は健康な猫にのみ行えます。以下の状態では接種を延期する必要があります。
- 発熱や食欲不振
- 嘔吐や下痢
- 明らかな体調不良
- 妊娠中
猫のワクチン接種当日は、愛猫の健康状態を普段よりも注意深く観察することが重要です。もし、普段と違う様子が見られたり、少しでも体調が優れないと感じた場合には、自己判断でワクチン接種を強行せずに、必ず事前にかかりつけの獣医師に相談してください。
免疫獲得までの期間

ワクチン接種後、免疫が獲得されるまで約2週間かかります。この期間は他の猫との接触を避け、外出も控えるようにしてください。
経過観察のポイント
ワクチン接種後の経過観察では、愛猫の体調変化を注意深く見守ることが大切です。以下の症状のいずれかが見られた場合は、副反応や体調不良の可能性があるため、速やかに動物病院へ連絡し、適切な診察を受けるようにしてください。
- 激しい嘔吐や下痢
- 呼吸困難
- 意識レベルの低下
- 顔面や体の異常な腫れ
- 24時間以上続く食欲不振
これらの症状は、ワクチンの副反応として現れる可能性があり、特にアナフィラキシーショックなどの重篤な反応の場合は迅速な対応が必要となります。日頃から愛猫の様子をよく観察し、少しでも異常を感じた場合は躊躇せず専門的な診察を受けることが、愛猫の健康と安全を守るために重要です。
愛猫の健康を守るために

猫のワクチン接種は、室内飼いであっても愛猫の健康を守るために必要不可欠な予防医療です。特にコアワクチンである3種混合ワクチンは、すべての猫に推奨されています。
子猫期の適切な接種プログラムと、その後の定期的な追加接種により、重篤な感染症から愛猫を守ることができます。接種費用は治療費と比べて格段に安く、何より猫の苦痛を防ぐ最良の方法です。
ワクチン接種に関して不安や疑問がある場合は、必ず獣医師にご相談ください。
茶屋ヶ坂動物病院では、地域のかかりつけ医として猫のワクチン接種をはじめとした様々な一般診療・予防医療に対応しております。猫の健康管理やワクチン接種に関するご相談も承っておりますので、お気軽にお越しください。適切な知識と経験豊富な獣医師陣が、大切な愛猫の健康をサポートいたします。
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