猫の虫歯について正しく理解することは、愛猫の健康を守る第一歩です。
茶屋ヶ坂動物病院でも、口腔トラブルを抱える猫ちゃんが多数来院されており、適切なケアの重要性を日々実感しています。この記事では、「猫は虫歯にならない」という話の真偽を解説し、猫の歯の健康を守るための実践的な知識をお伝えします。
愛猫の口腔ケアについて悩んでいる方は、ぜひ最後までお読みください。
猫は虫歯にならないのか?

結論から申し上げると、猫は基本的に虫歯になりません。
人の虫歯(齲歯「うし」)は、口の中の虫歯菌(ミュータンス菌(Streptococcus mutans))が作り出した酸によって、歯が溶けることで起こります。諸説にもとづいて、猫はいわゆる「虫歯」にはなりにくいと考えられています。
猫が虫歯にならない3つの理由
猫が虫歯にならない科学的な根拠は以下の3つです。人間の口腔内とは条件が大きく異なるため、猫は虫歯になりません。
口腔内環境の違い
人間の口内は中性からやや酸性を示すのに対して、猫の口内はアルカリ性です。虫歯の原因となるミュータンス菌などの虫歯菌は酸性環境を好むため、アルカリ性の猫の口内では生息・繁殖が困難です。
歯の形状の違い
人間の歯は食べ物をすりつぶすための臼型をしていますが、猫の歯は肉を切り裂くためのハサミ型をしています。臼型の歯には食べかすが残りやすく虫歯菌の温床となりやすいのですが、ハサミ型の猫の歯は食べかすが付着しにくい構造になっています。
食事内容の違い
虫歯菌は糖質を栄養源として酸を産生し、歯のエナメル質を溶かします。本来肉食動物である猫の食事には糖質が少ないため、虫歯菌にとって栄養が不足しがちな環境となっています。
例外について
糖質の多いおやつを頻繁に与えている場合や、口腔内の環境が特殊な状態にある場合には、虫歯のような症状が見られることもあります。しかし、これは非常に稀なケースであり、一般的には「猫は虫歯にならない」と考えて差し支えありません。
猫に多い歯科疾患とは

猫が虫歯にならないからといって、歯科疾患と無縁というわけではありません。むしろ、猫特有の歯科疾患が存在し、適切なケアが必要です。
歯周病
歯周病は猫の歯科疾患の中で最も多く見られる疾患で、全体の過半数を占めています。歯垢や歯石の蓄積により歯肉に炎症が起こり、進行すると歯を支える骨まで破壊される深刻な病気です。
歯周病の症状と進行
初期症状として口臭の悪化や歯肉の軽度な腫れが見られますが、飼い主様が気づきにくいことが多いのが現状です。進行すると歯肉からの出血、膿の排出、歯のぐらつき、食欲不振などの症状が現れます。
全身への影響
さらに重篤化すると、細菌が血流に乗って全身に回り、心臓病や腎臓病などの内臓疾患を引き起こすリスクもあります。単なる口の病気ではなく、全身の健康に関わる重要な疾患として捉える必要があります。
猫破歯細胞性吸収病変(通称:ネックリジョン)
猫破歯細胞性吸収病変(Feline odontoclastic resorptive lesion(FORL))は、猫特有の歯科疾患として注目されています。歯の根元付近から破歯細胞が歯質を吸収し、最終的には歯冠が欠けたり折れたりする病気です。
見た目と実際の症状のギャップ
見た目には小さな欠けに見えても、実際には強い痛みを伴うことが多く、レントゲン検査により初めて病変の全体像が明らかになることも少なくありません。
発症の特徴
この疾患は中高齢の猫に多く見られ、原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因や慢性的な炎症が関与していると考えられています。痛みにより食事を嫌がったり、顔を触られることを極端に嫌がったりする症状が見られる場合は、この病気を疑う必要があります。
その他の口腔疾患
その他にも、口内炎や歯肉炎、歯の破折なども猫によく見られる口腔疾患です。これらの疾患は単独で発症することもあれば、複数が同時に存在することもあり、包括的な診断と治療が必要となります。
猫の歯の異常を見つけるポイント

愛猫の口腔トラブルを早期発見するためには、日々の観察が重要です。以下のようなサインが見られたら、歯科疾患の可能性を疑ってください。
においの変化
口臭の変化は最も分かりやすいサインの一つです。健康な猫の口臭はそれほど強くありませんが、歯周病などが進行すると明らかに不快な臭いを発するようになります。「最近口が臭くなった」と感じたら、口腔内をチェックしてみましょう。
食事時の変化
食べ方の変化も重要な指標です。硬いフードを避けるようになったり、片側だけで噛むようになったり、食事に時間がかかるようになったりする場合は、口の中に痛みがある可能性があります。
また、食欲はあるのに食べ始めてすぐに立ち去ってしまう行動も、口腔内の痛みを示唆しています。
行動の変化
顔や口周りを触られることを極端に嫌がるようになったり、自分で口の周りをよく掻いたり、よだれの量が増えたりする場合は、口腔内に不快感や痛みがあるサインかもしれません。
見た目の変化
歯や歯肉の色の変化も見逃せません。歯肉の赤みや腫れ、歯の表面の黒い点や変色、歯の欠けや割れなどが観察された場合は、専門的な診察を受けることをお勧めします。
猫の歯の健康を守るためのケア方法

猫の口腔健康を維持するためには、日々のケアと定期的な専門ケアの両方が重要です。
日々の歯磨きケア
日々の歯磨きは最も効果的な予防法です。理想的には子猫の頃から歯磨きに慣れさせることですが、成猫でも段階的なアプローチで歯磨きを導入できます。
歯磨きの導入方法
まずは口周りを触ることから始め、指で歯や歯肉を触ることに慣れさせます。次に猫用の歯ブラシやガーゼを使って、少しずつ歯磨きの動作を覚えさせていきます。
効果的な歯磨きの頻度
歯磨きの頻度は毎日が理想ですが、週に2〜3回でも十分な効果が期待できます。猫用の歯磨きペーストを使用すると、味に興味を示して協力的になることもあります。人間用の歯磨き粉は猫にとって有害な成分が含まれているため、絶対に使用してはいけません。
フードやおやつでのケア
歯科専用フードやおやつの活用も有効です。歯垢の蓄積を抑える成分が配合されたフードや、歯の表面をこすって歯垢を除去する効果があるおやつなど、様々な製品が市販されています。
ただし、これらは補助的な役割であり、歯磨きの代替にはならないことを理解しておくことが大切です。
プロによる専門ケア
プロによる歯石除去も重要なケアの一つです。家庭でのケアだけでは除去できない歯石は、動物病院での専門的な処置が必要です。全身麻酔下での歯石除去により、歯の表面だけでなく歯周ポケットの奥まで徹底的にクリーニングできます。
ホームケア用品の活用
ホームケア用品として、歯磨きシートや口腔内スプレー、デンタルリンスなども利用できます。歯磨きが困難な猫でも、これらの製品なら比較的導入しやすいかもしれません。
茶屋ヶ坂動物病院での歯科治療について

茶屋ヶ坂動物病院では、猫の歯科疾患に対して包括的な診療を行っています。経験豊富な獣医師が、一匹一匹の状態に合わせた最適な治療プランをご提案いたします。
安全な麻酔管理
当院では安全な麻酔管理のもとで専門的な歯科治療を実施しています。麻酔科専門の獣医師による細やかな麻酔管理により、高齢の猫でも安心して歯科処置を受けていただけます。
術前の詳細な検査により麻酔リスクを評価し、個々の猫に最適な麻酔プロトコルを選択しています。
精密な診断
歯科検診では、視診や触診に加えて、必要に応じてレントゲン検査も実施します。特に破歯細胞性吸収病変の診断には、レントゲン検査が不可欠です。歯の根元や歯槽骨の状態まで詳細に評価することで、見た目では分からない病変も正確に診断できます。
治療後のフォローアップ
治療後は適切なフォローアップを行い、処置部位の治癒状況を確認するとともに、再発防止のためのホームケア指導も丁寧に行っています。飼い主様と二人三脚で、愛猫の口腔健康を長期的にサポートいたします。
茶屋ヶ坂動物病院|歯科のご案内猫の歯の病気に関するよくある質問

ここからは、茶屋ヶ坂動物病院によく寄せられる猫の歯の健康に関する質問をまとめました。飼い主様の不安や疑問の解消にお役立てください。
Q1:猫の歯が黒くなっているのは虫歯ですか?
猫の歯の黒ずみは虫歯ではなく、多くの場合、歯石の蓄積や破歯細胞性吸収病変による変色です。歯石は時間が経つと黒っぽく変色し、吸収病変では歯質が破壊されて黒い窪みができることがあります。いずれにしても専門的な診察が必要ですので、早めにご相談ください。
Q2:猫の歯磨きはどれくらいの頻度で行うべきですか?
理想的には毎日の歯磨きが推奨されますが、現実的には週に2〜3回でも十分な効果があります。重要なのは継続することです。猫が嫌がる場合は無理をせず、徐々に慣れさせていくことが大切です。
Q3:歯石除去は何歳くらいから必要ですか?
個体差がありますが、一般的には3〜5歳頃から歯石の蓄積が目立ち始めます。年に一度の歯科検診を受けていただき、必要に応じて歯石除去を行うことをお勧めします。
高齢になってからの処置はリスクが高くなるため、若いうちからの予防的なケアが重要です。
Q4:歯のケアをしていない場合、どのような病気のリスクがありますか?
歯周病による歯の喪失だけでなく、細菌が血流を介して全身に回ることで心臓病や腎臓病などの内臓疾患を引き起こすリスクがあります。また、慢性的な痛みにより食欲不振や生活の質の低下も招きかねません。
Q5:猫の歯科治療・歯石除去の費用の目安は?
治療内容により費用は変動しますが、基本的な歯石除去で数万円程度、抜歯が必要な場合はそれ以上になることもあります。詳細な費用については、診察時にご相談ください。
Q6:猫の歯科治療で麻酔は必要ですか?その安全性は?
効果的な歯科治療には全身麻酔が必要です。当院では安全な麻酔管理のもとで施術を行っており、術前検査により個々のリスクを評価して最適な麻酔計画を立てています。
今日からできる愛猫の口腔ケア
猫の口腔ケアは、愛猫の健康と生活の質を維持するために欠かせません。虫歯にはならない猫でも、歯周病をはじめとする様々な口腔疾患のリスクがあることを理解していただけたでしょうか。
日々の観察と適切なホームケア、そして定期的な専門的なチェックアップにより、多くの口腔疾患は予防・早期発見が可能です。
愛猫の口腔環境に少しでも心配がございましたら、ぜひ茶屋ヶ坂動物病院までご相談ください。経験豊富なスタッフが、一匹一匹に合わせた最適なケアプランをご提案し、愛猫の健やかな生活をサポートいたします。早期発見・早期治療により、愛猫がいつまでも美味しく食事を楽しめる毎日を守っていきましょう。
