犬も人間と同じように、感染症や病気にかかるリスクがあるため、適切なワクチンを接種して予防しておくことが重要です。中には、国から接種が義務付けられているワクチンもあるため、愛犬の命を守るためにも、ワクチンに関する知識はしっかり身につけておかなければなりません。
本記事では、犬に接種させる必要があるワクチンについて詳しく解説します。正しい知識を身につけて、大切な愛犬の健康を守りましょう。
犬へのワクチン接種の重要性

冒頭でも説明した通り、犬も人間と同様に生涯の中で様々な病気や感染症へかかるリスクがあります。中には命に関わる重大な病気もあり、それらを未然に防ぐためには、適切なワクチン接種が必要です。
ワクチンを接種することで、ウイルスや細菌のような病原体から身体を守る抗体を生成し、病気の発症を防いだり、発症しても重症化するリスクを抑えたりすることができます。
また、愛犬の健康のためだけではなく、人間や他の動物へ病気を移さないようにするためにもワクチンを接種することが重要です。犬から人間や他の動物に感染するリスクがある病気はいくつかあり、ワクチンを接種していなければ、それらの病気の発症を防ぐことが難しくなります。
愛犬の命を守るためにも、周囲の人間や動物の健康を守るためにも、ワクチン接種に関する正しい知識を身につけて確実にワクチンを接種させるようにしましょう。
茶屋ヶ坂動物病院|ワクチンのご案内犬のワクチンの種類

犬のワクチンは、大別すると狂犬病ワクチンと混合ワクチンの2種類があります。
狂犬病ワクチン
犬が発症する病気の中でも、特に危険性が高く人やその他の動物への感染リスクがあるものとして「狂犬病」が挙げられます。狂犬病は、発症すると致死率がほぼ100%に至る非常に危険な病気です。
狂犬病を発症した犬の唾液が体内に侵入すると、人間やその他の動物も狂犬病ウイルスに感染し、やがて命を落としてしまいます。そのため、狂犬病ワクチンは厚生労働省が定めた狂犬病予防法により、年1回の接種が義務付けられています。
狂犬病ワクチンは、生後91日以上の全ての飼い犬が年1回接種しなければなりません。もし飼い主が犬に対して狂犬病ワクチンを打たなかった場合、飼い主に対して20万円以下の罰金が課せられてしまうので、必ず接種させましょう。
混合ワクチン
混合ワクチンは、いくつかの感染症に効果があるワクチンを組み合わせたものです。接種は義務ではありませんが、強く推奨されているため、特別な事情がない限りは接種するようにしましょう。
混合ワクチンには、接種が推奨されているコアワクチンと、環境や生活スタイルに応じて接種の必要性が異なるノンコアワクチンがあります。コアワクチンとノンコアワクチンは、別々のワクチンというわけではなく、混合ワクチンを接種することでまとめて接種することが一般的です。
混合ワクチンの種類によって予防できる病気の数は異なり、一般的には5~8種類の混合ワクチンを接種することが多いです。なお、混合ワクチンで予防できる病気の組み合わせは、病院や地域によって異なる場合があるので、接種する際は予防対象の病気を確認しましょう。
ワクチン区分 | ワクチン名称 | 予防対象の病気 |
---|---|---|
コアワクチン | 2種混合ワクチン | ジステンパー、パルボウイルス感染症 |
3種混合ワクチン | ジステンパー、伝染性肝炎、アデノウイルス2型 | |
4種混合ワクチン | 上記3種+パラインフルエンザ | |
5種混合ワクチン | 上記4種+パルボウイルス | |
ノンコアワクチン | 6種混合ワクチン | 上記5種+コロナウイルス |
7種混合ワクチン | 5種混合+レプトスピラ症2種(カニコ―ラ型、黄疸出血型) | |
8種混合ワクチン | 上記7種+コロナウイルス | |
9種混合ワクチン | 上記8種+レプトスピラ症(ヘブドマディス型) | |
10種混合ワクチン | 上記9種+レプトスピラ症(グリッポチフォーサー型) |
コアワクチン
犬のコアワクチンとは、全ての犬に対して接種が強く推奨される基本的なワクチンです。命に関わる重大な感染症を予防するために必要不可欠とされており、「ジステンパー」「パルボウイルス」「アデノウイルス」などの病気が対象です。
これらの病気は感染力が強く、発症すると重篤化する恐れがあると同時に、人間にも感染する可能性のある人畜共通感染症なので、世界的にも全犬種に接種すべきとされています。
ノンコアワクチン
ノンコアワクチンとは、全ての犬に必ずしも必要というわけではなく、環境や生活スタイルなどに応じて接種を検討するワクチンです。主な対象には「レプトスピラ症」「犬コロナウイルス感染症」「犬パラインフルエンザウイルス感染症」などがあります。
例えば、川や公園、山などへ頻繁に出かける犬は、レプトスピラ症のリスクが高まるため、予防が推奨されます。ノンコアワクチンは混合ワクチンの6種以上に含まれており、地域の感染状況や犬の活動範囲に応じて、獣医師と相談のうえ判断することが大切です。
ワクチン接種にかかる費用
犬にワクチンを接種させる際にかかるおおよその費用は、以下の表にまとめます。なお、混合ワクチンについては、一般的に接種されることが多い5種・7種の費用を掲載します。
ワクチン名称 | 費用の目安 | |
---|---|---|
狂犬病ワクチン | 自治体の集団接種 | 3,000~3,500円 (注射済票交付手数料込み) |
動物病院 | 3,000~4,500円 (注射済票交付手数料込み) |
|
5種混合ワクチン | 5,000~7,000円 | |
7種混合ワクチン | 6,000~9,000円 |
狂犬病ワクチンについては、毎年4~6月頃に自治体が集団接種を開催していることがあり、動物病院で接種するより費用がやや安いです。なお、狂犬病ワクチンの接種済み登録も行う必要がありますが、集団接種では登録手続きもその場で同時に行うことが可能です。
ただし、狂犬病ワクチンは生後91日を迎えたらすぐに接種することが推奨されているため、集団接種の開催が遠い場合は動物病院で早めに接種しましょう。
ワクチン接種のスケジュール

ワクチンを接種する際は、ワクチンの種類だけではなくスケジュールも重要になります。子犬と成犬とではワクチン接種のスケジュールが異なるため、それぞれ解説します。
【子犬の場合】ワクチン接種スケジュール
子犬を家族に迎える際、生後日数を正しく把握し、今後のワクチン接種スケジュールを早めに計画することが重要です。ペットショップで犬を購入する場合、すでに子犬期のワクチン接種を済ませてあることがほとんどでしょう。
しかし、繁殖した犬を譲り受ける場合は、自身でワクチン接種のスケジュールを組む必要があります。ワクチン接種のスケジュールを組む際は、獣医師に相談してプログラムを立てましょう。
子犬の場合、生後からのワクチン接種の一般的なスケジュールは以下の通りです。
時期 | ワクチン |
生後91日 | 狂犬病ワクチン |
上記2週間後 | 混合ワクチン1回目 |
上記1ヶ月後 | 混合ワクチン2回目 |
上記1か月後 | 混合ワクチン3回目 |
子犬には、母犬から譲り受けた「移行抗体」があることが一般的です。移行抗体は成長とともに消えていきますが、まだ移行抗体が残っている状態でワクチンを接種しても、子犬自身の免疫獲得が十分に得られません。
そのため、上記のように数回にわたって混合ワクチンを接種する方法が推奨されています。
【成犬の場合】ワクチン接種スケジュール
成犬のワクチン接種は、基本的に1年に1回となっています。
狂犬病ワクチンについては、年1回の接種が義務付けられているため、4〜6月の集団接種を利用して接種するケースが多いです。混合ワクチンに関しては、狂犬病ワクチンの接種から最低でも2週間程度時間を空けましょう。
ただし、近年はワクチン接種による犬への負担を考慮して、抗体価検査を行い免疫が確認された場合には、混合ワクチンの接種頻度を2~3年に1回にするケースも増えています。日本では1年に1回が推奨されている混合ワクチンの接種ですが、世界小動物獣医師会(WSAVA)によるガイドラインで推奨されているのは3年に1回です。
犬のワクチン接種の適切な頻度は、生活環境や地域ごとの感染症などの発症状況に左右されるため、獣医師をしっかり相談してスケジュールを立てましょう。
ワクチン接種時は副作用に要注意
ワクチンを接種したあとは、副作用を発症するリスクがあります。
副作用の代表的な症状には、注射部位の腫れ、元気や食欲の低下、軽い発熱、眠気などがあり、通常は1〜2日で回復します。ただし、まれにアレルギー反応が起こることがあります。顔の腫れ、嘔吐、下痢、呼吸困難などが見られた場合は、すぐに動物病院を受診してください。
ワクチン接種後は安静に過ごさせ、一緒にいて体調の変化に注意を払いましょう。また、接種してから3日程度はシャンプーや激しい運動を控えることが望ましいです。
犬のワクチンに関する注意点

犬にワクチンを接種させる際は、以下の点に注意しましょう。
- 体調が悪いときは接種を避ける
- 混合ワクチンは適切な種類を選ぶ
- 接種証明書は大切に保管する
体調が悪いときは接種を避ける
ワクチンは健康な状態で打つことが前提です。食欲不振や下痢、元気がないといった不調が見られるときに接種すると、効果が得られなかったり、体調を悪化させたりするリスクがあります。
接種当日は、食欲や排泄、活動量など日常の様子をよく観察し、少しでも異常があれば無理せず日程を延期しましょう。獣医師も接種前に簡単な健康チェックを行いますが、飼い主の日頃の観察が重要な判断材料となります。
混合ワクチンは適切な種類を選ぶ
混合ワクチンには2種から10種まで種類があり、数字が大きいほど予防できる病気の数が増えます。しかし、多ければよいというわけではなく、犬の生活スタイルや環境に合わせて適切な種類を選ぶことが大切です。
例えば、室内飼育が中心で自然環境に出ることが少ない犬には、5種程度でも十分な場合があります。一方で、川や山、公園などによく行く犬には、レプトスピラ症などのノンコアワクチンを含む7種以上の接種が推奨されることがあります。
過剰な接種は、犬の負担を増加させたり副作用の発症リスクを高めたりする可能性があるため、獣医師と相談して最適なワクチンを選びましょう。
接種証明書は大切に保管する
ワクチンを接種したあとは、「接種証明書」が発行されます。これは、ペットホテルやドッグラン、トリミングサロンなどを利用する際に提出を求められることが多いため、失くさないように保管しておきましょう。
また、自治体への登録や狂犬病注射済票の交付にも必要となる場合があります。証明書には接種日やワクチンの種類、製造番号などが記載されており、万が一の体調変化があった場合の参考にもなります。
適切なワクチンを接種して愛犬の健康を守りましょう
犬のワクチン接種は、病気を予防して健康を守るために非常に重要です。中には、命に関わる重篤な症状を発症する病気にかかる危険性もあるため、愛犬自身の命だけでなく周囲の人間や動物の命を守るためにも、必ずワクチンを接種しましょう。
ワクチンを接種する際は、ワクチンの種類やスケジュール、注意点を把握しておくことが大切です。今回紹介した内容を参考に、獣医師と相談して愛犬に合った正しい予防を行いましょう。
茶屋ヶ坂動物病院では、地域のかかりつけ医としてワクチン接種をはじめとした様々な一般診療・予防医療に対応しております。ワクチン接種に関する相談も承っておりますので、お気軽にお越しください。
