栄養価が高いことで知られるはちみつですが、愛犬に与えても問題ないのかと疑問に思う飼い主もいらっしゃるのではないでしょうか。基本的には健康な成犬であれば与えても良い食品ですが、与え方や量には注意が必要です。

本記事では、犬にはちみつを与えるメリットやリスク、安全な与え方、与える際の注意点などを獣医師が詳しく解説します。愛犬の健康を守るために、正しい知識を身につけましょう。

犬にはちみつを与えても大丈夫?

結論から申し上げると、健康な成犬であれば、はちみつを少量与えても基本的には問題ありません。

はちみつにはビタミンやミネラル、酵素などが含まれており、栄養補給に役立つことがあります。ただし、主成分は糖分であるため、過剰に与えることは肥満や虫歯につながる可能性があります。

また、ボツリヌス菌の芽胞が含まれていることがあるため、消化器官が未発達な子犬や免疫力が低下している犬には、中毒のリスクがあるため絶対に与えないでください。

犬にはちみつを与えるメリット

犬にはちみつを与えることには、いくつかのメリットが期待できます。ただし、これらは主食であるドッグフードの栄養を補うものではなく、あくまで補助的なものとして捉えることが重要です。

犬にはちみつを与える主なメリットは、以下の通りです。

  • 効率的なエネルギー補給
  • 喉や咳のケア
  • 栄養素の補給
  • 食欲増進効果

効率的なエネルギー補給

はちみつの主成分であるブドウ糖や果糖は、体内で速やかに吸収されエネルギーに変換されます。そのため、運動後で疲れている、あるいは夏バテ、病後などで食欲が落ちて体力が低下している犬に対して、素早いエネルギー補給源として役立つ食べ物です。

喉や咳のケア

はちみつには自然な抗菌・抗炎症作用と、喉を潤して粘膜を保護する効果が期待できます。ケンネルコフのような軽い咳や、喉のイガイガを和らげるのに役立つ場合があります。ただし、咳の原因は様々ですので、まずは動物病院で診断を受けることが最優先です。

栄養素の補給

はちみつには、ビタミンB群、ミネラル(カリウム、カルシウム、鉄など)、酵素、ポリフェノールといった多様な栄養素が少量ながら含まれています。これらの抗酸化作用を持つ成分は、愛犬の健康維持をサポートする可能性があります。

食欲増進効果

はちみつの甘い香りと味は、犬の食欲を増進させるのに効果的です。食欲が落ちている時や、薬を飲ませる際に、フードや薬に少量のはちみつを混ぜることで、食いつきが良くなることがあります。

犬に与えても良いはちみつの量

犬に与えても良いはちみつの量は、愛犬の体重によって異なるため注意が必要です。はちみつはカロリーが高く、糖分が主成分のため、与えすぎは肥満や健康を害する原因になります。
あくまでおやつやご褒美として、1日の摂取カロリーの10%以内に収まるように与えるのが原則です。以下の体重別の目安量を参考に、ごく少量から試してください。

犬のサイズ 体重 1日の上限量の目安
超小型犬 ~5kg 小さじ 1/4〜1/2杯程度
小型犬 5~10kg 小さじ 1杯程度
中型犬 10~25kg 小さじ 2杯程度
大型犬 25kg~ 大さじ 1杯程度

※小さじ1杯は約7g、大さじ1杯は約21gです。
※はちみつ小さじ1杯のカロリーは約20〜23kcalです。

上記はあくまで目安の量となるので、愛犬の健康状態や活動量、普段の食事内容を考慮して、適切な量を守ることが最も重要です。

犬へのはちみつの与え方

犬へはちみつを与える際は、正しい与え方と、避けるべき誤った与え方を理解しておく必要があります。

正しいはちみつの与え方

犬にはちみつを与える際は、目的に応じて以下の方法で与えましょう。

  • スプーンなどで直接与える
  • フードにトッピングする
  • 薬を飲ませる際に与える

スプーンなどで直接与える

咳や喉のケアが目的の場合、はちみつの粘性が喉の粘膜を直接潤すため、スプーンや指先に少量つけて舐めさせるのが効果的です。運動後の素早いエネルギー補給にも、この方法が向いています。

フードにトッピングする

食欲が落ちている時や、普段のフードに変化をつけたい時に有効です。ドライフードやウェットフードの上に少量のはちみつを垂らしてよく混ぜることで、嗜好性が増し、食いつきを良くする効果が期待できます。

薬を飲ませる際に与える

錠剤をはちみつでコーティングしたり、粉薬を少量のはちみつに混ぜたりすることで、苦い薬を嫌がる犬のストレスを軽減できます。ただし、薬との飲み合わせについては、事前に獣医師に確認してください。

誤ったはちみつの与え方

犬にはちみつを与えたいからといって、人間用に作られた「はちみつ入り加工食品」を与えてしまうことは絶対に避けてください。犬にとってはカロリーが非常に高く、肥満や虫歯の原因になるリスクが高いです。

また、犬に与えると危険な食品や成分が含まれている可能性があり、体調不良につながりかねません。犬用に作られたはちみつ入りのおやつなどは問題ありませんが、人間用の加工食品は与えないということを徹底しましょう。

犬にはちみつを与えるリスク・注意点

少量であれば安全に与えることができるはちみつですが、与える際は以下のリスクや注意点をしっかり理解しておきましょう。

  • 必ず適量を守る
  • 子犬や老犬には与えない
  • アレルギー反応を起こす可能性がある
  • 持病や基礎疾患が悪化する可能性がある

必ず適量を守る

はちみつの主成分は約8割がブドウ糖や果糖といった糖質であり、非常にカロリーが高い食品です。適量であれば素早いエネルギー源として役立ちますが、日常的に与えすぎると深刻な健康問題につながります。

過剰なカロリー摂取は肥満の直接的な原因となり、関節疾患や心臓病のリスクを高めます。また、過剰摂取の状態が続くと、血糖値のコントロールに影響を与え、将来的に糖尿病の発症リスクを高める可能性も否定できません。

愛犬の健康を守るためには、何事も適量を意識して、バランスの取れた食事を与えることが重要です。

子犬や老犬には与えない

はちみつを子犬や老犬に与えることは、健康上のリスクがあるため避けましょう。

特に1歳未満の子犬は、消化器官が未発達で免疫力も不十分です。そのため、はちみつに稀に含まれるボツリヌス菌を摂取した場合、腸内で菌が増殖して毒素を出し、重篤な神経症状を引き起こす「乳児ボツリヌス症」を発症する危険性があります。これは命に関わる非常に危険な状態です。

一方、老犬は加齢に伴い免疫力や消化機能が低下しているため、同様にボツリヌス菌への抵抗力が弱まっている可能性があります。これらのリスクを考慮し、子犬や老犬にはちみつを与えないようにしましょう。

アレルギー反応を起こす可能性がある

はちみつはミツバチが様々な花から蜜を集めて作られる天然物であるため、多種多様な花粉を含んでいます。この花粉がアレルゲンとなり、犬によってはアレルギー反応を引き起こすことがあります。

症状は多岐にわたり、皮膚のかゆみ、発疹、目の充血、顔や口周りの腫れといった皮膚症状が最も一般的です。その他にも、下痢や嘔吐などの消化器症状が見られることもあります。

愛犬に初めてはちみつを与える場合は、まず爪楊枝の先につける程度のごく少量から試し、その後、数時間から丸一日は体調に異変がないか注意深く観察してください。もし何らかの異常が見られた場合は、すぐにかかりつけの動物病院に相談しましょう。

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持病や基礎疾患が悪化するリスクがある

すでに何らかの病気を患っている犬にはちみつを与えることは、その病状を悪化させる危険性が高いため、原則として避けるべきです。

特に、腎不全など腎臓の機能が低下している犬に与えると、はちみつに含まれるカリウムなどのミネラルをうまく排出できず、高カリウム血症などを引き起こす危険があります。また、糖尿病の犬にはちみつを与えると、主成分である糖分が血糖値を急激に上昇させ、命に関わる危険な状態を招くことがあります。

その他、肥満や膵炎などで食事療法を行っている場合も、食事の栄養バランスを崩す原因となりかねません。愛犬が何らかの持病を抱えている、あるいは療法食を食べている場合は、飼い主の自己判断ではちみつを与えず、必ず獣医師に相談し、その指示に従うことが重要です。

愛犬がはちみつを口にして体調不良を起こしたら

万が一、愛犬がはちみつを口にして体調不良を起こした場合は、慌てず冷静に対処することが重要です。

まずは、愛犬がそれ以上はちみつや原因と考えられるものを口にしないよう、すぐに取り上げてください。その後、愛犬の状態を注意深く観察し、落ち着いて状況を確認しましょう。

食べてしまったものや量、時間などを確認し、自己判断で様子見せずにすぐ動物病院に連絡してください。電話する際は、犬種や年齢、体重、持病など愛犬の情報に加え、先ほど確認した食べたものに関する情報をできるだけ正確に伝えましょう。

そして、獣医師の指示に従って、すぐに病院へ向かう、または自宅で様子を見るといった対応をとります。決して自己判断で無理に吐かせたり、そのまま様子を見たりすることなく、獣医師の判断に委ねましょう。

適量を守って安全にはちみつを与えよう

はちみつは、健康な成犬であれば適量を守ることでエネルギー補給などの良い効果が期待できます。しかし、子犬や老犬、持病のある犬には与えず、初めての場合はアレルギーにも注意が必要です。

誤った与え方をしてしまうと、愛犬の健康に影響を及ぼしてしまう可能性があるため、本記事で紹介した正しい与え方と適量を守ることを徹底してください。愛犬の健康状態を第一に考えながら、安全な範囲で食生活を豊かにしてあげましょう。