ふとしたときに犬がつく「ため息」。実は、犬のため息にはさまざまな意味が隠されています。リラックスや不満、ストレスなどの気持ちを表すだけでなく、体調不良や病気の兆候であることも。

本記事では、犬のため息の種類や意味、気をつけたい病気などを詳しく解説します。

犬のため息はどんなもの?

人間のため息といえば、口から「はぁー」と出るものです。しかし、犬のため息は口からではなく鼻から出ます。犬も口から大きな息を吐くときがありますが、それは「開口呼吸」というもので、ため息とは違います。

また、鼻で呼吸をしているときに鼻息が出るので、鼻息とため息の見極めが難しい場合がありますが、鼻息とため息の違いは「息を吐く量」です。鼻息は吸う量と吐く量が同じくらいなのに対し、ため息の場合は「フーッ」と長く息を吐き出すので、吸う量より吐く量が多くなります。

人間のため息はストレスや疲れなどネガティブな感情と結びつくものが多いですが、犬の場合は感情の切り替えや心の落ち着きを表す自然な仕草です。ただし、頻繁にため息をついたり、元気がない様子があれば、ストレスや体調不良の可能性もあるため日頃から様子をしっかり見守っておくことが重要です。

犬がため息をつくのはどんなとき?

犬がため息をつく行動には、さまざまな意味が込められています。何気ない仕草に見えて、そこには犬なりの感情やサインが隠れていることもあります。

ここでは、犬がため息をつく主な場面をご紹介したいと思います。

リラックスしている

犬は、リラックスしてるとため息をもらすことがあります。飼い主のそばでくつろいでいるときや、マッサージ・ブラッシング中、ごはんのあと、遊びのあとなどによく見られる行動です。

特に伏せや横になった姿勢で尻尾がゆるみ、目を細めながらため息をつくのは、満足感や安心感を示すサインといえるでしょう。

不満やストレスを感じている

犬は不満やストレスを感じたときにも、ため息をつくことがあります。「散歩に行きたい」「ごはんが欲しい」といった要求が通らないときや、引っ越しなどによる環境の変化、他の犬や動物と接触した際などに見られます。

落ち着きなく歩き回る、身震いをするなどの仕草を伴うケースもあり、ため息とともにそうした動きを見せるときは注意が必要です。

疲労や体調不良がある

疲労や体調不良のサインとして、犬がため息をつくケースもあります。たくさん遊んだあとのため息であれば心配はいりませんが、動きが鈍い、元気がない、呼吸が苦しそうといった様子が見られる場合は、体調に異常がないかを慎重に見守りましょう。

犬のため息は飼い主への「演技」や「コミュニケーション」

犬のため息には、次に紹介するもののように、飼い主に向けた「演技」や「コミュニケーション」としての意味が込められていることもあります。

「気づいてアピール」としてのため息

犬は、かまってほしいときや不満を感じているときに、わざとため息をついて飼い主の注意を引こうとすることがあります。

忙しそうな飼い主の様子を見ながら、これ見よがしに「フーッ」と大きなため息をつく姿は、まさにアピール行動のひとつ。視線を送ったり、体を寄せてきたりする仕草があれば、気づいてほしいというサインかもしれません。

「気づいてアピール」をしてきたときは、愛犬の気持ちに寄り添い、少し手を止めて声をかけてあげるだけでも、安心感を与えることができます。

「共感」や「空気を読む」行動としてのため息

飼い主が落ち込んでいたり、ため息をついたりした直後に、犬も同じようにため息をつくことがあります。これは単なる偶然ではなく、犬がその場の空気を敏感に感じ取り、共感や同調の気持ちを表現していると考えられます。

特に、飼い主の感情の変化に敏感な犬は、悲しそうな雰囲気や沈んだ様子に反応して、そっと寄り添うようにため息をつくことがあります。犬の優しく繊細な一面が感じられる瞬間といえるでしょう。

犬のため息の理由がわからない時の対処法

犬がため息をつく理由がわからない場合は、普段の行動や犬との接し方を振り返り、以下の対処を試みてみましょう。

ストレスの原因を取り除く

犬は環境の変化や刺激に敏感で、目立たないストレスを抱えていることがあります。騒音、留守番時間の長さ、生活リズムの乱れなどが原因になることも。

まずは生活環境や日課を見直し、犬が不快に感じる要素がないか確認してみましょう。寝床の位置を変えたり、安心できるスペースを整えるなど、犬の目線で環境を整えることが大切です。

犬と接する時間を増やす

犬は飼い主とのつながりをとても大切にします。構ってもらえない、遊んでもらえないといった寂しさから、退屈や不安を感じてため息をつくことがあります。意識的に散歩や遊び、声かけの時間を増やすことで、心の満足感や安心感を与えることを意識しましょう。

コミュニケーションを通じて犬の気持ちを安定させることは、ため息の原因を探るうえでも役立つだけでなく、信頼関係の強化にもつながります。

動物病院で診察してもらう

ため息が明らかに多い、ぐったりしている、食欲が落ちているなどの異変が見られる場合は、体の不調が隠れている可能性があります。特に高齢犬や持病がある犬は、体調の変化をため息というかたちで表すことも。

自己判断せず、早めに動物病院で診てもらうことで、大きなトラブルを未然に防げます。病気でなくても、獣医師に相談することで適切なアドバイスが受けられ、安心できるでしょう。

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ため息が多いときに考えられる病気とは?

犬が頻繁にため息をつくようになった場合、単なる癖ではなく、体調不良や病気のサインである可能性が高まります。呼吸器系や消化器系の異常が関係しているケースもあり、放置すると命にかかわる危険も。

ここでは、ため息が多いときに考えられる代表的な病気を3つご紹介します。

気管虚脱

気管虚脱は小型犬に多く見られる呼吸器の病気です。はっきりとした原因はわかっていませんが、遺伝や炎症、肥満などがリスク要因と考えられています。

「ゼーゼー」「ガーガー」という呼吸音や乾いた咳が特徴で、悪化すると呼吸困難に陥ることも。特に夜間にため息が多くなるときは、気管虚脱の可能性があるため注意が必要です。

治療は内科療法が中心ですが、重症の場合は手術が検討されます。

胃捻転

胃捻転は、胃がねじれて血流が止まることで急激に症状が悪化する病気です。胃捻転を発症すると、食後に胃の内部でガスが大量に発生し、ため息やゲップが頻繁に出ることがあります。

吐こうとしても吐けない、腹部が膨張している、呼吸が苦しそうなどの症状が見られたら、すぐに受診しましょう。治療をせずに放置すると命の危険があるため、緊急での対応が必須です。

鼻腔狭窄

鼻腔狭窄は、パグやフレンチブルドッグ、ペキニーズなどの短頭種に多く見られる先天的な疾患で、鼻の穴が狭く呼吸がしづらくなる病気です。呼吸が苦しかったり、鼻水が溜まって息苦しさを感じたりすることで、ため息のような深い呼吸を繰り返す場合があります。

また、いびきに似た音や、ハッハッという荒い呼吸、鼻水を飛ばす仕草もよく見られます。

重症化すると酸欠や熱中症のリスクもあるため、異常を感じたら早めに獣医師に相談し、必要に応じて外科的治療を検討しましょう。

動物病院を受診する目安

犬のため息は多くの場合、単なる生理的な行動ですが、頻度の増加や他の症状を伴う場合には注意が必要です。特に、動物病院を受診する主な目安として、次の2つが挙げられます。

回数やタイミングに変化がある

ため息をつく回数やタイミングに変化が見られる場合は、体調不良や病気が原因の可能性があります。特に、頻度が急に増えたり、何度も続けてため息をついたりする場合は、体の異常を知らせるサインかもしれません。様子を見ても改善しないようであれば、早めに動物病院で相談しましょう。

特定のタイミングでため息をつく

犬が特定のタイミングでため息をつくようになった場合は、身体の不調のサインかもしれません。特に、食後にため息が多くなったような場合は注意が必要です。

食後にため息をつくことが多くなった場合、消化不良や胃の不調、腹部の疾患などの可能性があります。単に満足してリラックスしていることも考えられますが、ため息の後に元気がなかったり腹部を気にしたりする場合には、動物病院で診てもらうことを検討しましょう。

ため息以外の症状がある

咳や呼吸の乱れ、食欲不振など、ため息以外の症状がある場合も、動物病院を受診した方がいいでしょう。中でも、呼吸が早く浅い、舌や歯茎が青紫色に変色している、腹部が異常に膨らんでいるなどの症状が見られるときは、受診を急ぐ必要があります。

また、嘔吐や下痢、散歩を嫌がる、寝てばかりいるなどの変化も見逃さないことが大切です。

犬のため息を正しく理解して愛犬の気持ちや異変に素早く気づこう

犬のため息は、気持ちを表しているだけでなく、体調不良や病気のサインになっていることもあります。日常の行動や呼吸の変化をよく観察し、異常を感じるときは早めに獣医師に相談しましょう。

小さなサインに気づくことは、愛犬の健康を守る第一歩です。