犬も人間と同様に、しゃっくりをすることがあります。特に子犬はしゃっくりをすることが多いですが、急に愛犬がしゃっくりし出すと驚いてしまう飼い主様も少なくありません。

また、中にはしゃっくりが止まらなかったり、呼吸が苦しそうになったりすることもあり、何らかの病気のサインの可能性もあります。

そこで本記事では、犬のしゃっくりの原因や対処法、自宅でできる予防や病気の可能性などについて詳しく解説します。

犬のしゃっくりのメカニズム

犬のしゃっくりは、人間と同じく横隔膜の痙攣によって引き起こされる生理現象です。横隔膜とは、胸とお腹を隔てるドーム状の筋肉で、呼吸をする上で非常に重要な役割を担っています。

通常、呼吸をする際は、脳からの指令で横隔膜がスムーズに収縮・弛緩を繰り返します。しかし、何らかの刺激によってこの横隔膜が意図せず収縮すると、肺から空気が勢いよく吸い込まれます。この時、声帯のすぐ近くにある声門が閉じるため、空気の流れが遮られ、あの独特の「ヒック」という音が鳴るのです。

犬の場合、人間ほどしゃっくりの回数は多くないものの、胸部や腹部の構造が似ているため、しゃっくりを起こす可能性は十分あります。多くの場合、人間と同じように自然に治まることがほとんどです。しかし、中には病気のサインが隠されている可能性もあるので、いざというときに正しい行動を取れるように、犬のしゃっくりに対して理解を深めておきましょう。

子犬と成犬のしゃっくりの違い

犬のしゃっくりは、成長段階によってその特徴や背景が異なります。子犬と成犬で、それぞれのしゃっくりの特徴を解説します。

子犬のしゃっくり

子犬のしゃっくりは非常に一般的で、多くの場合生理的なものです。主な理由としては、以下が挙げられます。

  • 横隔膜や神経系の未発達
  • 消化器系の未熟さ
  • 早食いや遊びすぎ

子犬は呼吸機能や消化器系の連携がまだ十分に整っていないため、ちょっとした刺激でも横隔膜が痙攣しやすい傾向があります。胃腸の働きが不安定で、ガスが溜まりやすいことも1つの原因です。食事を勢いよく食べることで空気を飲み込んだり、興奮して呼吸が乱れることでしゃっくりが出やすくなります。

成犬のしゃっくり

成犬のしゃっくりは子犬に比べて頻度が低くなりますが、こちらも多くは一時的な生理現象です。しかし、子犬とは異なり、場合によっては健康上のサインである可能性も考慮する必要があります。

成犬の場合、強いストレスや興奮、基礎疾患などがしゃっくりの原因と考えられており、場合によっては命に関わってしまう可能性もあるため注意が必要です。

犬がしゃっくりを起こす主な原因

犬がしゃっくりを起こす主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

早食い・大食い

犬がしゃっくりを起こす最も一般的な原因の1つが、早食いや食事の際に大量の空気を飲み込んでしまうことです。特に食欲旺盛な犬や、多頭飼育で他の犬との競争意識がある場合などに、食事を急いでかきこむ傾向が見られます。

この時、食べ物と一緒に大量の空気が食道や胃に入り込むことで、胃が急激に膨らみます。胃のすぐ上には横隔膜があるため、胃の膨満が横隔膜を刺激し、その結果としてしゃっくりが誘発されると考えられています。

子犬に多いとされるのも、食べることに夢中になりすぎて空気を飲み込みやすいことが一因です。食後にすぐ活発に動き回ることも胃への刺激となり、しゃっくりを引き起こす可能性があります。

冷たいものの摂取

体が冷えることや、冷たいもの(特に氷や冷たい水など)を急に摂取することも、犬のしゃっくりの原因となることがあります。冷たいものが食道や胃を通過する際に、その刺激が横隔膜に伝わり、痙攣を引き起こすという仕組みです。

冬場の散歩で体が冷え切ってしまったり、夏場に暑がっているからといって大量の氷を与えたりすることは、しゃっくりを引き起こすリスクを高める可能性があります。特に、体が小さく体温調節機能が未熟な子犬や、胃腸が敏感な犬では、こうした刺激によってしゃっくりを引き起こしやすいです。

興奮・ストレス

犬は人間と同様に、感情の起伏によって体の生理機能に影響が出ることがあります。強い興奮やストレスを感じている時、犬の呼吸は通常よりも速く、浅くなることが多いです。

この呼吸の変化が横隔膜の動きに影響を与え、一時的な痙攣、つまりしゃっくりを引き起こすというメカニズムです。例えば、飼い主さんが帰宅した時の喜びのあまり跳びはねる、新しいおもちゃで遊びすぎて過剰に興奮するなど、様々な状況で発生する可能性があります。

肥満

肥満によって脂肪が蓄積されると、胃や腸などの内臓を圧迫してしまいます。この圧迫が、胸腔と腹腔を隔てる重要な筋肉である横隔膜の動きを制限してしまうことがあり、それによってしゃっくりを引き起こしてしまうのです。

また、犬は喉元にも脂肪がつきやすく、気道の狭窄や呼吸のしづらさを招くことがあります。これにより、呼吸が浅くなったり、呼吸器系に負担がかかったりするので、間接的に横隔膜を刺激してしゃっくりを引き起こしてしまうでしょう。

犬がしゃっくりをした時の対処法

犬がしゃっくりをして心配だというときは、以下の対処法を試してみましょう。

優しく撫でて落ち着かせる

犬がしゃっくりをしている時は、興奮している場合も少なくありません。優しく体を撫でてあげたり、落ち着いた声で話しかけたりすることで、愛犬の気持ちが落ち着き、呼吸が整うでしょう。

特に、お腹や喉元をゆっくりと撫でてあげることで、横隔膜の痙攣が和らぐ可能性があります。愛犬が安心することで、副交感神経が優位になり、しゃっくりが治まるケースも多いです。

数秒息を止めさせる

人間のしゃっくり止めによく用いられる「息を止める」方法は、犬に対しても有効です。しかし、犬に無理やり息を止めさせることは、大きなストレスを与えたり、呼吸器に負担をかけたりする可能性があります。

無理に行うのではなく、愛犬の口を優しく握り、鼻を短時間(数秒程度)軽く塞ぐことで、意識的に呼吸のリズムを変えることを促しましょう。しかし、愛犬が嫌がるようであればすぐに中止してください。病気が隠れている可能性もあるため、苦しそうな場合は行わないようにしましょう。

気をそらす行動をさせる

愛犬がしゃっくりをしていることを「忘れさせる」ことも有効な方法です。お気に入りのおもちゃで遊ばせたり、短い距離の散歩に誘ったりすることで、愛犬の注意をしゃっくりからそらすことができます。

これにより、精神的なリラックス効果が生まれ、横隔膜の痙攣が自然に治まることがあります。ただし、激しい運動は呼吸を乱す可能性があるため、あくまで軽い遊びや気分転換に留めるようにしましょう。

犬のしゃっくりで考えられる病気

犬のしゃっくりは、多くの場合は生理現象によるものですが、中には病気が原因で引き起こされているケースもあるため、注意が必要です。しゃっくりを引き起こす可能性がある病気としては、以下のものが挙げられます。

呼吸器疾患

肺炎、気管支炎、喘息、胸膜炎、あるいは肺腫瘍などの呼吸器系の病気は、横隔膜やその周辺に炎症や刺激を与えることで、しゃっくりを引き起こす可能性があります。これらの疾患では、呼吸器系の働きが正常でなくなり、咳や呼吸困難、ゼーゼーといった異常な呼吸音を伴うことが少なくありません。

しゃっくりが、これらの呼吸器症状と同時に見られる場合は病気のサインである可能性が高いです。特に肺炎などは急激に悪化することもあるため、早期の診断と治療が求められます。

消化器疾患

胃炎、胃拡張・胃捻転症候群、腸閉塞、あるいは消化管にできた腫瘍などの消化器系の病気も、横隔膜を刺激することでしゃっくりを引き起こす原因の1つです。特に、胃拡張・胃捻転症候群は、胃がねじれてしまう緊急性の高い病気で、お腹がパンパンに張る、吐こうとするが吐けないなどの症状と共に、しゃっくりが見られることがあります。

また、消化器系の炎症や異常なガス発生なども、胃の膨満を引き起こし、横隔膜への刺激となることがあります。嘔吐や下痢、食欲不振などを伴う場合は注意が必要です。

神経系疾患

脳腫瘍、脳炎、脳梗塞、てんかんなどの脳や神経系の疾患が、横隔膜を支配する神経に異常な刺激を与えることで、しゃっくりが症状として現れることがあります。これらの病気によるしゃっくりは、頻繁に起こったり、長時間続いたりするでしょう。

また、しゃっくり以外にも、痙攣発作、ふらつき、意識障害、行動の変化、視覚・聴覚の異常といった神経症状を伴うことが特徴です。もし、しゃっくりと共にこれらの症状が見られる場合は、緊急性が高いため、速やかに動物病院を受診する必要があります。

心臓疾患

心臓の肥大や心膜炎、心臓腫瘍など、心臓に関わる病気も、しゃっくりを引き起こす可能性がある病気です。心臓が大きくなることで、横隔膜やその周辺の組織を物理的に圧迫したり、心臓の機能低下により体液の循環に異常が生じたりして、横隔膜周辺に影響を及ぼすことが考えられます。

心臓疾患がある犬の場合、しゃっくり以外にも咳、呼吸が速い・荒い、疲れやすい、ぐったりしている、舌の色が紫色になる(チアノーゼ)などの症状が見られることがあります。これらの症状としゃっくりが併発している場合は、心臓に異常がある可能性が高いです。

受診した方が良いしゃっくりの見分け方

生理現象によって引き起こされるしゃっくりは、短時間で自然に治まることがほとんどなので、病院で受診する必要はありません。しかし、先ほど紹介したように病気によってしゃっくりが引き起こされていることも考えられるため、以下のような場合は受診することをおすすめします。

  • しゃっくりが長時間続いて治まらない(目安1時間以上)
  • しゃっくりが頻発する
  • しゃっくりが苦しそうに見える
  • 咳や呼吸困難などを伴う
  • 吐き気や下痢、食欲不振を伴う
  • 痙攣発作やふらつきが伴う
  • ぐったりしている

上記の症状が見られるときは、健康面で何らかの変化が現れているサインかもしれません。必要であれば動画を撮影するなどして症状を記録し、動物病院で詳しく症状を伝えましょう。

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家庭でできるしゃっくりの予防法

人間と同様に犬もしゃっくりを不快に感じている可能性があるので、以下のような方法でしゃっくりを引き起こさないように予防してあげましょう。

食事環境の改善と早食い防止

早食いは空気の飲み込みを増やし、しゃっくりの原因になります。早食い防止食器を活用し、フードをゆっくり食べさせる工夫をしましょう。

一度に与える食事量を減らし、複数回に分けて与えることも有効です。食後はすぐに激しい運動をさせず、消化を促すためにも安静な時間を作りましょう。

ストレス軽減とリラックスできる環境作り

興奮やストレスは呼吸を乱し、しゃっくりを引き起こす可能性があります。適度な運動でエネルギーを発散させ、安心して過ごせる静かな場所を用意しましょう。飼い主との穏やかなスキンシップや声かけも、愛犬の心を落ち着かせ、ストレスを軽減するのに役立ちます。

体の冷え対策と飲水習慣の見直し

体の冷えや冷たいものの摂取は横隔膜を刺激します。冬場は室温を適切に保ち、必要に応じて毛布などを活用しましょう。与える水は常温の水にし、冷たすぎるものは避けてください。

また、喉が渇いていても一気に大量の水を飲ませず、少量ずつゆっくり与える習慣をつけましょう。

愛犬のしゃっくりの原因を知って適切に対応しよう

犬のしゃっくりは、多くの場合、一時的な生理現象で心配いりません。特に子犬は、横隔膜の未発達や早食いなどが原因で頻繁にしゃっくりをします。早食い防止食器の利用や、食後の安静、ストレスを軽減できる環境作り、そして体の冷え対策など、日頃のちょっとした工夫で予防できることも多いです。

しかし、中には呼吸器や消化器、神経系、心臓などの病気が隠れている可能性もあります。もししゃっくりが長時間続く、頻繁に起こる、あるいは咳や嘔吐、ぐったりしているなどの他の症状を伴う場合は、迷わず動物病院を受診しましょう。

愛犬の様子をよく観察し、適切な対処と予防で、健康で快適な毎日を過ごさせてあげてください。