犬も人間と同じように、脳腫瘍を発症することがあります。脳腫瘍が発症してしまうと徐々に悪化していき、命に関わる重大な事態になりかねないため、早期発見が非常に重要です。

しかし、脳腫瘍によって引き起こされる症状を正しく理解しておかなければ、早期発見することは難しいでしょう。

そこで今回は、犬の脳腫瘍の種類や症状、治療法などについて詳しく解説します。大切な愛犬の命を守るためにも、この記事を読んで犬の脳腫瘍について理解を深めましょう。

犬の脳腫瘍の種類

脳腫瘍とは、脳にできる癌のことですが、大きく分けると「原発性脳腫瘍」と「転移性脳腫瘍」の2種類があります。

原発性脳腫瘍

原発性脳腫瘍とは、犬の脳そのものから発生する腫瘍です。最も多いのは「髄膜腫(ずいまくしゅ)」で、脳を包む膜から発生します。

その他にも星状膠腫(せいじょうこうしゅ)や上衣腫(じょういしゅ)などがあります。多くは中高齢の犬に見られ、犬種によって発症のしやすさが異なります。

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍は、身体の他の部位にできた癌が血流などを介して脳に転移して発生する腫瘍です。肺癌や乳腺腫瘍、悪性黒色腫などが転移源となることがあります。

原発性よりも発症頻度は少ないものの、複数箇所に腫瘍ができる可能性が高く、症状は原発性と似ていますが、進行が早い傾向があります。

犬の脳腫瘍の主な症状

犬が脳腫瘍を患った際、ちょっとした変化が現れてきます。以下が代表的な症状の例です。

  • てんかん発作(突然倒れる、けいれんする)
  • 行動の変化(性格が急に変わる、興奮しやすい、無反応)
  • 運動障害(ふらつき、歩行困難、脚の麻痺)
  • 視覚障害(視力低下、斜視、焦点が定まらない)
  • 聴覚変化(聴力低下、音への反応が鈍くなる)
  • 旋回運動(くるくる回り出す)
  • 平衡感覚の低下(首の捻転)
  • 無気力
  • 食欲変化(食欲の低下や過食)
  • 失禁

上記のような症状は、脳腫瘍以外の病気でも引き起こされる可能性があるため、症状だけで脳腫瘍と断定することはできません。しかし、上記の症状が現れて少しでも違和感を感じたら、脳腫瘍の可能性を疑い、動物病院で受診するようにしましょう。

犬が脳腫瘍を発症する原因

現在の医学では、犬が原発性脳腫瘍を発症する原因は特定できていません。しかし、考えられるものとして挙げられるのが、以下の要因です。

  • 遺伝性要因
  • 加齢
  • ホルモンや免疫の異常
  • 環境要因

遺伝性要因

脳腫瘍は、ある一部の犬種で発生率が高いことが研究によってわかっていることから、遺伝(犬種の素因)が関係している可能性があります。ゴールデンレトリバーやドーベルマン、ボーダーコリー、ボストンテリアなどの短頭種は、他の犬種と比較して脳腫瘍の発症リスクが高いとされている犬種です。

加齢

脳腫瘍は、7歳以上の中高齢の犬に多く見られることから、加齢が脳腫瘍の発症に関係しているのではないかと考えられます。加齢によって、細胞が老化することや、遺伝子の変異が蓄積していることが脳腫瘍の発症に影響を与えていると考えられるためです。

ホルモンや免疫の異常

犬の脳腫瘍の要因の一つとして、ホルモンや免疫の異常が挙げられます。免疫機能が低下すると、体内で発生した異常細胞を排除できず、脳腫瘍へと進行するという見解です。また、ホルモンバランスの崩れも細胞の異常な増殖を誘発し、脳腫瘍形成の一因となることがあります。

環境要因

科学的根拠はまだ限定的ですが、受動喫煙や化学物質の摂取なども脳腫瘍の要因になると考えられています。犬がいる空間では喫煙しないようにしたり、安全なペットフードを与えたりするように心がけることで、脳腫瘍の発症リスクを低下できるかもしれません。

犬の脳腫瘍を発見する検査

犬が脳腫瘍を発症したとしても、初期の段階ではなかなか気付くことができません。前述した症状が現れて気付いた頃には、すでに癌が進行しているケースがほとんどです。

そのため、犬の健康状態を定期的に検査しておくことが重要です。脳腫瘍の発見につながる検査には、以下のものがあります。

  • 獣医師による問診・症状の診察
  • 血液検査
  • 神経学的検査
  • MRI検査
  • CT検査

普段から犬の様子や行動をよく観察し、いつもと違う状態が続いたら動物病院に行って獣医師による診察を受けましょう。MRI検査やCT検査は高額な費用がかかるだけでなく、鎮静剤の投与なども必要になることがあるので、獣医師に相談してから検査を受けるか検討することをおすすめします。

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犬の脳腫瘍の治療法

脳腫瘍を発症しているとわかった場合、治療を進める必要があります。脳腫瘍の治療法はいくつかあり、期待される効果やメリット・デメリットを理解しておくことが重要です。

  • 外科手術
  • 放射線治療
  • 薬物治療
  • 緩和療法
  • 食事療法

外科治療

手術によって脳腫瘍を直接取り除く方法です。特に髄膜腫など、表面に近い場所に腫瘍が有る場合に実施されます。

腫瘍を直接取り除くため、症状が大きく改善される可能性が高いです。完全に摘出できれば、完治できる可能性もあり、効果も早い段階で現れるでしょう。

しかし、手術が必ずしも成功するとは限らないため、大きなリスクも伴います。腫瘍が深部にある場合や、広範囲に広がっている場合は取り除くことが難しく、術後の回復にも時間がかかるでしょう。

また、転移性腫瘍の場合、脳以外の部位から癌細胞が全身を巡っているため、脳腫瘍を摘出できたとしても、完治することは困難です。

放射線治療

放射線治療とは、腫瘍細胞を破壊するために放射線を照射する治療法です。放射線治療によって、腫瘍の縮小や進行抑制などの効果が期待でき、症状の改善につながる可能性があります。

放射線治療は、外科手術が難しい部位の腫瘍の治療をすることができ、外科手術と比較すると犬の身体への負担が少ないです。一方で、放射線に対しての反応は個々によって様々で、なかなか効果が得られない可能性も否定できません。

また、放射線治療を実施する際は全身麻酔をする必要がありますが、老犬や肺に疾患のある犬の場合、麻酔による健康リスクは高まるので、慎重な判断が求められます。

薬物治療

薬物治療とは、抗がん剤を投与して腫瘍細胞の増殖を抑制する方法です。単独での効果は限定的な場合がありますが、腫瘍の進行を抑えることが可能です。

他の治療法と併用することで相乗効果が期待できることや、投薬による治療のため外科手術や放射線治療と比較すると、身体への負担が少ないことがメリットとして挙げられます。一方で、吐き気や食欲不振などの副作用が現れるケースが多く、生活が苦しくなってしまうリスクは大きいです。

薬物治療を勧められた際には、脳腫瘍への影響や副作用について十分に説明を受け、取り入れるべきかをじっくり検討しましょう。

緩和療法

緩和療法とは、脳腫瘍そのものの治療ではなく、症状を和らげる薬を投与してQOL(生活の質)をできるだけ保つことを目的としたアプローチです。手術や放射線治療が受けられないケースに選択されることが多い療法です。

発作や痛み、食欲不振、むくみなどの症状をコントロールすることで、愛犬が苦しまずに穏やかな日常を過ごせるようになります。心の安定や家族との時間を大切にできるという精神的な効果も期待されます。

一方で、症状の緩和には個体差があり、全ての症状を抑えることは難しいでしょう。長期的に治療をしていると、徐々に効果が薄れることがあるため、継続的な見直しと調整が必要です。

食事療法

食事療法は、あくまで腫瘍の進行を抑えたり体力を維持したりすることを目的とした補助的なアプローチです。癌細胞はブドウ糖をエネルギー源とするため、高たんぱくな食事を与えて糖質制限をすることにより、癌細胞の増殖を抑制できる可能性があります。

食事療法は、身体への負担がほとんどなく日常生活の中で継続しやすい治療法です。他の治療法と併用しても体調を安定させる効果が期待でき、QOLを保ったまま治療を続けられる可能性があります。

しかし、先述の通り食事だけで脳腫瘍を治すことはできません。食事を変更することによって食欲不振が起きる可能性もあるため、急に切り替えるのではなく段階的に食事内容を見直していきましょう。

飼い主の心構えや向き合い方が大事

愛犬が脳腫瘍と診断されたとき、大きな不安と戸惑いがあるかと思います。しかし、不安や焦りが先行してしまえば、冷静な判断ができなくなり、適切な処置や対応をすることが難しくなってしまうかもしれません。

そのため、まずは冷静に病気と向き合い、愛犬が穏やかに過ごせるよう日々の接し方を大切にすることが重要です。また、治療の選択や生活の工夫など、正しい情報をもとに納得のいく判断を重ねていくことが求められます。

もし完治が難しい場合でも、食事や環境によって症状の進行を抑えたり、QOLを保ったまま過ごしたりすることができるようになります。愛犬にとって、飼い主の存在そのものが最大の支えとなるのです。

脳腫瘍の疑いがある場合はすぐ動物病院へ

犬の脳腫瘍は、早期発見と適切な対応が命を守るカギとなります。早期発見するためには、症状を正しく理解し、日頃から愛犬の様子をよく観察することが大切です。

少しの変化でも見逃さず、気になることがあれば放置せずに行動しましょう。脳腫瘍は進行が早い場合もあるため、何か普段と違う様子があると感じた場合、すぐに動物病院で診察を受けることをおすすめします。

大切な家族である愛犬の健康を守るために、正しい知識と冷静な判断を持って向き合いましょう。