犬の腎臓病は、愛犬の命を脅かす深刻な病気の一つです。特に高齢になると発症リスクが高まり、気づいたときには進行しているケースも珍しくありません。
しかし、腎臓病は「早期発見」と「適切な管理」によって、進行を遅らせることが可能な病気です。
この記事では、犬の腎臓病の基礎知識から、症状・原因・治療法、さらには家庭でできる予防や早期発見のポイントまで、獣医師監修情報をもとにわかりやすく解説します。大切な愛犬の健康を守るために、ぜひ最後までご覧ください。
犬の腎臓病とはどんな病気?

犬の腎臓は、体の中で老廃物を排出し、血圧を調整し、ホルモンを分泌するなど、生命維持に欠かせない働きを担っています。そんな重要な腎臓が機能を失っていくと、犬の健康に深刻な影響を及ぼします。
ここでは、腎臓の役割や腎臓病の種類、症状について詳しく解説していきます。
腎臓の働き
犬の腎臓は、血液中の老廃物を尿として排出する臓器です。さらに、ホルモンの分泌や血圧の調整、体内の水分・電解質バランスの維持など、生命維持に欠かせない多くの役割を担っています。
そのため、腎臓機能が低下すると全身に深刻な影響が現れるようになります。
腎臓病の種類(急性腎臓病と慢性腎臓病)
犬の腎臓病には、「急性腎臓病」と「慢性腎臓病」の2つのタイプがあります。
急性腎臓病
数時間から数日の短期間で腎機能が急速に低下する病気です。感染症や中毒、尿路閉塞などが原因となり、早期の治療を逃すと命に関わるリスクが高まります。
慢性腎臓病
数ヶ月から数年単位でゆっくりと進行する病気で、特に加齢に伴って発症するケースが多くみられます。初期段階では症状が目立たないため、発見が遅れることも少なくありません。
腎臓病で現れる主な症状
犬の腎臓病で見られる代表的な症状は、次のようなものがあります。
- 多飲多尿(飲水量・排尿量の増加)
- 食欲低下、体重減少
- 元気がない、活動性の低下
- 嘔吐や下痢
- 口臭の悪化
これらの変化は、病気が進行するにつれて徐々に顕著になっていきます。早い段階で異変に気づき、動物病院で検査を受けることが、重症化を防ぐためにとても重要です。
犬の腎臓病の原因

犬の腎臓病は、単なる「老化現象」だけでなく、さまざまな原因によって引き起こされます。
原因を理解しておくことで、予防や早期対応に役立てることができます。ここでは、犬の腎臓病の主な原因について詳しく見ていきましょう。
加齢による臓器の老化
年齢を重ねると、体内のさまざまな臓器が徐々に機能を低下させます。腎臓も例外ではなく、加齢に伴いダメージが蓄積し、腎臓病を発症するリスクが高まります。
特にシニア期(7歳以上)の犬では、定期的な健康チェックが欠かせません。
細菌・ウイルス感染
感染症による腎炎も腎臓病の大きな原因の一つです。レプトスピラ症※などの細菌感染やウイルス感染によって腎臓が炎症を起こし、機能が損なわれることがあります。
※レプトスピラ症とは:レプトスピラ菌に感染することで起こる症状です。主にネズミの尿や糞で汚染された水や土壌で感染が起こります。山や川に遊びに行った後に発熱、食欲不振、元気消失、嘔吐、下痢、脱水などの症状が見られた場合は、注意が必要です
中毒(薬物や有害植物)
特定の薬剤や、有毒植物(例:ユリ科の植物)を誤食することで、急激に腎臓がダメージを受けることもあります。特に家庭内にある観葉植物や人間用の薬品には十分注意が必要です。
免疫異常
体の免疫システムが自分自身の腎臓を攻撃してしまう「自己免疫性疾患」によって、腎炎が起こることもあります。この場合、特定の治療が必要になるため、早期の発見と専門的なケアが重要です。
外傷や尿路閉塞
外傷による腎臓の損傷や、尿路の結石・腫瘍による閉塞も腎臓病の原因になります。排尿異常が見られた場合は、早めに動物病院を受診することが推奨されます。
腎臓病の主な症状と進行ステージごとの変化

犬の腎臓病は、進行段階によって現れる症状が異なります。特に初期の段階では目立った異変が少なく、飼い主さんが気づきにくいことも少なくありません。
ここでは、腎臓病のステージごとの主な症状と、注意すべきポイントについて詳しく解説します。
初期症状:多飲多尿、食欲減退、元気がない
腎臓病の初期では、以下のような症状が見られます。
- 飲み水の量が増える(多飲)
- 排尿の回数や量が増える(多尿)
- 食欲が落ちる
- なんとなく元気がない、活動量が減る
これらは腎臓が体内の水分バランスを調整できなくなったサインでもあります。日々の生活の中でさりげない変化を見逃さないことが大切です。
進行症状:嘔吐、体重減少、口臭、脱水、便秘、痙攣(けいれん)
病気が進行すると、より深刻な症状が現れてきます。
- 嘔吐や下痢が増える
- 明らかな体重減少
- 強い口臭
- 脱水症状
- 便秘
- 痙攣(けいれん)発作
これらの症状は、体内に老廃物がたまって尿毒症を引き起こしているサインです。重篤な場合は緊急対応が必要になるため、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。
症状に気づきにくい理由(シニア期の自然な変化と誤認しやすい)
シニア犬の場合、「水をたくさん飲む」「寝ている時間が増える」といった行動の変化を単なる老化現象だと思い込みやすい傾向があります。しかし、これらは腎臓病の初期症状であることも少なくありません。
「年齢のせい」と片付けず、少しでも気になる点があれば早めに獣医師に相談することが、愛犬の健康寿命を守るカギになります。
犬の腎臓病の診断方法
犬の腎臓病は、見た目だけでは判断が難しく、専門的な検査を通じて初めて正確に診断されます。病気の進行度を把握し、最適な治療方針を決めるためにも、早期に正しい診断を受けることが重要です。
ここでは、動物病院で行われる主な検査方法について紹介します。
血液検査(クレアチニン、BUN、SDMA)
腎臓病の診断に欠かせないのが血液検査です。特に重要視される項目は以下のとおりです。
- クレアチニン(CRE):腎機能が落ちると血中濃度が上昇します。
- 尿素窒素(BUN):腎臓の排泄機能が低下すると値が高くなります。
- SDMA(対称性ジメチルアルギニン):従来より早期に腎機能低下を発見できる新しいマーカーです。
これらの数値をもとに、腎臓機能のダメージ度合いを総合的に評価します。
尿検査(尿比重、蛋白尿)
尿検査も非常に重要な検査のひとつです。
- 尿の濃さを示す「尿比重」の低下
- 蛋白質が尿中に漏れ出す「蛋白尿」の有無
これらの異常が見つかると、腎臓に何らかのトラブルが起きている可能性が高いと判断されます。
画像検査(レントゲン、超音波(エコー))
腎臓の大きさや形、内部構造を確認するために、レントゲン検査や超音波検査が行われます。結石や腫瘍、腎臓の萎縮などが疑われる場合に特に有効です。
血圧測定
慢性腎臓病では高血圧を併発することがあるため、血圧測定も重要です。収縮期血圧が160 mmHgを超える場合は高血圧と判断されます。IRISステージ分類※の指標の一つでもあります。
※IRISステージ分類とは:犬の慢性腎臓病(CKD)の進行度を評価するための国際的な基準。血液検査や尿検査の結果、そして臨床症状に基づいて、慢性腎臓病をステージ1からステージ4までの4段階に分け、病気の重症度を示す。ステージ分類は、治療方針の決定や予後(病気の経過予測)を立てるために重要な指標となる。
治療方法の選択肢

犬の腎臓病は、一度ダメージを受けた腎臓の組織を元に戻すことが難しいため、「完治」よりも「進行を遅らせること」が治療の目的になります。ここでは、腎臓病の進行状況に応じた一般的な治療法について解説します。
急性腎臓病:原因治療+輸液・透析
急性腎臓病の場合、原因を特定し、迅速に治療することが最優先です。
- 感染症の場合:抗生物質などによる治療
- 中毒の場合:毒素の除去や解毒処置
- 尿路閉塞の場合:結石や腫瘍の除去、カテーテル処置など
同時に、脱水や電解質バランスの異常を改善するために輸液療法(点滴)が行われます。症状が重い場合には透析療法(腹膜透析・血液透析)を実施し、体内に溜まった老廃物を取り除くこともあります。
慢性腎臓病:食事療法、投薬、皮下点滴
慢性腎臓病では、腎機能を少しでも長く保つために、生活全体を見直しながら管理していきます。
食事療法
腎臓への負担を減らすため、たんぱく質、リン、ナトリウムを制限した療法食が推奨されます。また、脱水を防ぐため、適度な水分摂取も重要です。
投薬治療
高血圧や貧血、蛋白尿など、腎臓病に伴う合併症の治療薬を使用します。
皮下点滴
自宅や病院で定期的に皮下点滴を行い、水分補給と老廃物排出をサポートします。
予防と早期発見のためにできる家庭ケア

腎臓病は、発症してから治療するよりも、できるだけ早く兆候を見つけ、進行を防ぐことが何よりも大切です。日々の生活の中で気を付けるべきポイントを押さえておくことで、愛犬の健康を長く守ることができます。
ここでは、犬の腎臓病を予防・早期発見するために飼い主ができる対策を紹介します。
定期健康診断を受ける
特にシニア期(7歳以上)に入った犬では、年に1〜2回の健康診断を受けることが推奨されます。血液検査や尿検査によって、腎臓のダメージを早期に発見できる可能性が高まります。また、SDMA検査など新しい検査技術を活用することで、さらに早期発見の精度が上がっています。
茶屋ヶ坂動物病院|健康診断のご案内排尿や飲水量を日常的にチェックする
排尿の回数や量、尿の色、飲み水の減り具合zに注目しましょう。
- おしっこの回数・量が増えていないか
- 尿が異常に薄くなっていないか
- 水を飲む量が急に増えていないか
こうした小さな変化を見逃さず、異常を感じたら早めに動物病院を受診することが重要です。
バランスの取れた食事と新鮮な水を与える
高塩分、高たんぱくの食事は腎臓に負担をかけます。日常的に栄養バランスの取れた食事を与えること、常に新鮮な水を飲める環境を整えることも腎臓病予防につながります。
毎日の口腔ケアを習慣にする
歯周病などの口腔内トラブルは、腎臓病のリスクを高めることが知られています。日頃から歯磨きやデンタルケアを続け、口腔内の健康を保つことで、間接的に腎臓への負担も軽減できます。
愛犬の変化に敏感になる
「年齢のせいかな」と思うようなちょっとした元気のなさや食欲不振も、実は病気のサインかもしれません。普段から愛犬の様子をよく観察し、異変に気づいたらすぐに専門医に相談する意識を持つことが、最良の予防策となります。
愛犬の健康寿命を守るためにできること

犬の腎臓病は、早期発見と愛犬の細やかな観察がなによりも重要です。病気が進行する前に小さなサインに気づき、適切な対応を取ることで、愛犬の健康寿命を延ばすことができます。
毎日の観察と定期的な健診を欠かさず、愛犬の「いつもと違う」を見逃さないこと。それが、大切なパートナーとの幸せな時間を一日でも長く続けるための何よりの近道です。
